掲載日 : [2010-01-15] 照会数 : 4726
朗読CD「尹東柱詩集」 言葉は命 かみしめ友好を
[ 天沼律子さん ]
思いのたけ込め自費制作 天沼律子さん
27歳の若さで獄死した詩人、尹東柱の詩25編を日本語と韓国語で収録した初の朗読CD「尹東柱詩集」が昨年12月、キングインターナショナルから発売された。CDを自費制作した天沼律子さん(63)は、過去100年の韓日の不幸な歴史を自分の痛みとして感じてきた。尹東柱と彼の詩が、国や民族を超えて人々を結びつけたように、このCDが新しい100年の第一歩を踏み出す両国の、友好の懸け橋になることを願っている。
韓日両国語の美しい響き
心を結ぶ糸口に
「言葉というのは伝達の手段だけではない、命そのものだと思っている」。思いの限りを朗読CDに注ぎ込んだ。念願が叶った今、静かに喜びをかみしめている。
収録された詩25編は、尹東柱の代表作となる「序詩」をはじめ1942年、東京の立教大学英文科に入学、在学中に同校の便せんにハングルで書かれた「白い影」「流れる街」「いとしい追憶」「たやすく書かれた詩」「春」の5編など。
朗読者は劇団ピープルシアター所属の俳優、二宮聡さんと、大韓聖公会司祭の柳時京さん。抑揚をおさえながらも感情を込め、美しい日本語と韓国語で読み上げる。深みを持った言葉が心に染み入る。
天沼さんが尹東柱の詩に出会ったのは20年前。当時、日本語の教師として韓国をはじめ、世界中の学生を相手に教えていた。「学生に日本語を教えるだけでなく、私も相手の言葉を覚える」というのが天沼さんの姿勢。以前から韓国の古代史に興味があったことから、韓国の学生から、韓国語を習うことになった。
そのころ1冊の本と巡り会う。詩人、茨木のり子著「ハングルへの旅」だ。尹東柱の頁に目が釘付けになった。伊吹郷さんの日本語訳による数編の詩。まだ尹東柱に対する知識もなく、人となりも分からなかった。
みずみずしい感性に打たれ
「何という素直な美しさだろうと。詩そのものの持つ清廉でみずみずしい感性に心打たれた」。本は今でも持ち歩く。「いつも詩を読みたいから」
尹東柱の詩には、人々の心を捉えて離さない不思議な力がある。「詩には強い自己主張も押しつけもなく、むしろ言葉少なく、慎ましやか」だと指摘する。
「訴えようとしていないからこそ、そのなかに本当に伝えたいことを自分で探す、自分たちの心をもう一度聞いてみるというところに深い共感があるのでは」
天沼さんは立教大学のOGであり、同校の教職員、OB・OGによって発足した「詩人尹東柱を記念する立教の会」のメンバーでもある。以前、朗読の会で、韓国の学生が日本語で、天沼さんが韓国語で朗読を行った。
「そのとき、こんなに自分が心を打たれるものを、訳の美しい日本語と、韓国語の美しさで聴きたいと思った」
早速、天沼さんは夫の澄夫さんに、2カ国語による朗読CDの相談を持ちかけた。澄夫さんが代表を務めるキングインターナショナルは、キングレコードの子会社で、輸入版の販売などの事業を手がける。
澄夫さんからの提案は自費制作。ただし条件があった。「制作には大きな責任が伴う。中途半端に自分の思いだけでするなら賛成しない」。制作に関わるノウハウなどのサポートは澄夫さんが引き受けた。
収益は記念の奨学金基金に
伊吹さん、2人の朗読者をはじめ、CD制作に関わった画家らは皆、無償での協力を快諾した。CDの収益は、同校で4月に発足する「尹東柱記念奨学金基金」に寄付するという。
「皆さまへの私の感謝を込めた思いを表現する方法であり、このCDのあるべき姿と価値がそこにある」
天沼さんは「尹東柱は死をもって未来を作った」と話す。詩を通して日本人が韓国と結びついた。
「この詩を愛さないことには、何も彼には近づけない。本当の尹東柱の心に届くには、詩を通して近づき、彼と自分の心のなかで糸を結んでいくことが大事」。だからこそ、組織や団体に属さず個人で作ることにこだわった。
CD完成後、「自分の言葉を取り上げられたら、生きていけるのか」と強く思うようになった。「相手の言葉が自分のなかにあるということは、相手の国をまた生きるということ。文化や人、国そのものが自分のなかに入ってくる。言葉とは命そのもの」
今年、韓日併合条約から100年を迎える。新しい未来へ向けて、このCDが役立つことを念願する。
定価2500円。問い合わせはキングインターナショナル(℡03・3945・2333)。
(2009.12.23 民団新聞)