掲載日 : [2010-06-23] 照会数 : 4473
<読書>神の器 幻の「井戸茶碗」を蘇らせて
豊臣秀吉の「朝鮮出兵」(壬辰倭乱)の際、諸大名が数多くの陶工を連れ帰った。それを契機に、九州一円には陶磁器の窯場が相次いで開設されていく。壬辰倭乱が「やきもの戦争」と呼ばれる由縁である。
主人公・申釈もその1人。本書は、高麗茶碗を再現した申正熙氏の長男である著者が、主人公を自らの祖先にだぶらせながら描いた歴史小説だ。日本に連行された後、鍋島藩(現在の佐賀県)の侍陶工として「高麗村」を設け、さまざまな焼物をつくりだしていく。物語ながら、有田焼をはじめ、唐津焼、伊万里焼、薩摩焼などを誕生させた陶祖の実名、たとえば李参平らが登場して興味深い。彼らが、その後、日本が陶磁器国家として発展する礎を築いたからだ。
タイトルの「神の器」とは、茶の世界では最高の名器とされた「井戸茶碗」のことで、本来、先祖を祭る祭器だった。
主人公は井戸茶碗に秘められた謎を追い求め、作品を蘇らせていくが、その執念に、著者の鎮魂歌をかいま見る思いだ。
家族が引き裂かれたり、武将の戦績「鼻の簾」が登場するなど、強制連行された陶工らの悲哀が全編を通じて行間ににじむ。年を経るほどに高じていく望郷の念。そこに、在日同胞1世の姿が重なって見えた。
申翰均著
里文出版(上下巻各1500円+税)
℡03・3352・7322
(2010.6.23 民団新聞)