
著者が一貫して描いてきた人間の欲望と心の傷、植物性、死、存在論の問題が凝縮された秀作と評され、韓国で最も権威ある李箱文学賞を受賞した。
ごく平凡な妻・ヨンヘが、夢を見たことをきっかけに突然、肉食を拒み、日に日にやせ細っていく。父親が無理やりにヨンヘの口に肉を押し込むと、ヨンヘは手首を切る。彼女をそこまで追い込むものは何か。
ヨンヘが子どものころ、飼い犬にかまれた。その犬を殺して食べた父親から、暴力を振るわれてきた。ヨンヘの骨の奥に、誰も推し量ることのできないものがしみ入っていた。
ヨンヘにとって人間の怒りや欲望、憎しみ、暴力などは動物的であり、獣のような存在だ。だが人間は、それが存在する世界で生きている。「誰もわたしを助けられない。誰もわたしを生かすことはできない。誰もわたしに息をさせることはできない」。ヨンヘの悲痛な声はどこにも届かない。
ヨンヘは木になることを願う。争いもいがみ合いもなく、静寂な植物の世界で生きることを。人間たちのなかでうごめいている動物性と、静かに揺れる植物性との葛藤を浮き彫りにしている。ヨンヘの動物性に対する抵抗は凄まじい。
ヨンヘの夫、義兄、姉の3者の目を通して語られる。登場人物の誰もが孤独と心の傷を抱えている。実存する問題を長年見据えてきた著者の力作。
クオンは韓国で刊行された書籍を日本語訳にしている出版社。本書は「新しい韓国の史学」シリーズの第1弾。
ハン・ガン著・きむふな訳
クオン
(2200円+税)
℡03(3532)3896
(2011.10.19 民団新聞)