
あえぐ人民に心かよわせ
「教育熱心で、国民の意識が高く、勤労意欲の高い民族を抱えた国が、なぜ、今もなお『食べる問題』すら、解決できないでいるのか」
中国の支援でかろうじて生きながらえるような状態にある。しかも、何の実績もない20代の若者に権力が世襲されようとしている北韓。
「感情的な非難や罵倒だけでは問題は何も変わらない。北朝鮮という国がどういう道を歩み、どういう論理で行動しているのか」。金日成時代、金正日時代の国家システムの変遷と指導部がいかに形成され今日のような権力形態になったのか、金正日から金正恩への3代権力継承に向かって、どのような人々が重要な役割を果たそうとしているのか。冷静な検証を通じて北韓の政治と社会の実像に迫る。
北韓は、「先軍体制」によって核・ミサイル開発をはじめ軍事を最優先し、最も肝心な経済の再建、人民生活の向上を先送りしてきた。このため2012年(来年)に「強盛大国の大門を開く」ことはもはや不可能となった。
著者は「金正恩氏の後継態勢づくりに最も必要なものは『人民生活の向上』であるが、経済が短期的に再建される見通しはない。中国の支援が続いても経済状況が好転せず、金正恩氏の『実績』がつくれない場合に、軍事的な挑発に走らない保障はない」と憂慮する。
「北朝鮮の住民がさらに悲惨な境遇に陥ってほしくない」と切望する著者は、北韓が生き残る道は「先軍」を捨てて「先民」へ転換するしかないと強調。「この『民』は『民衆』であり『民族』であり『民主』である。まずは、人民の生活向上を最優先にした『先民』が第一課題であろう。軍や政治優先ではなく、経済優先に路線を転換することだ」と主張する。
だが、何の実績もなく権力基盤の弱い金正恩にはそれはできない。「まずその可能性はないと考えながらも、後継者に期待するよりは、金正日氏に期待するしかない」という「絶望的な叫び」として「先民」への転換を訴えてやまない。「その先に、韓国との関係正常化をつうじての『民族和解』や『統一』への道、さらには『民主化』へのプロセスがあろう」と。
平井久志著
岩波現代文庫
(1480円+税)
℡03(5210)4000
(2011.10.19 民団新聞)