
18世紀初頭の東アジアを舞台にした、壮大な冒険ロマンである。
主人公の対馬藩士、阿比留克人(あびる・かつんど)は、新井白石の学友雨森芳洲の薫陶を受けた若者だ。朝鮮語や漢語、武術に優れ、釜山の倭館に赴任した。いつしか、徳川幕府の密命を帯び、朝鮮朝の特殊工作員、李順之とは裏取引をする仲になっていた。
5年後、朝鮮通信使に随行し、警護役として対馬に戻る場面から物語は始まる。
幕府から対馬藩に、通信使の国書を変更するよう厳命が下った。芳洲から密命を受けた阿比留は秘中の秘とされる「銀の道」を馬で駆け抜けた。途中、監察御史柳成一との宿命的な出会いで、相討ちとなり傷を負う。後日、柳は通信使の軍官司令となり、同行する。
阿比留と柳の対立はいやがうえにも緊張感を高めていく。ついには大阪で一騎打ちの勝負に。居合抜きの達人、阿比留が紙一重の差で斬り倒し、敦賀港から朝鮮へ逐電した。ここまでが前半。
10数年後、阿比留は金次東と改め、陶工になっていた。対馬藩存亡の窮地を救ってほしいと依頼された金は、世界最速の馬を将軍吉宗に献上すれば藩が助かると知り、天馬を求めて仲間と韃靼へ旅立つ。朝鮮と中国の国境に近い会寧の馬市でチャハル・ハーンらと出会い、「天馬が飼育されている秘密の牧場」へ向かった。
モンゴルの奥深くに分け入り、別天地に遂に伝説の天馬を目にした。3頭だけ持ち出すことを許され、会寧から清津へ、船で鬱陵島を経由して敦賀へと向かった。そして…。
登場人物に魅力的な者が多く、虚実のエピソードが随所に盛り込まれ、ぐいぐいと引き込まれていく。
500人で編成された通信使の大規模なパレードとそれを迎える船団や民衆の数々、対馬藩と幕府という二重構造、阿比留を助けた綱渡り仮面劇の広大リョンハンとの叶わぬ恋、大阪堂島米会所の先物取引、暗号として使われる阿比留文字、潜商(密貿易)を行う大阪商人唐金屋、秘密結社哥老会、柳成一の息子との出会い等々。嵐を避けるため上陸した鬱陵島の描写が印象的だ。
辻原登著
日本経済新聞出版社
(2400円+税)
℡03(5255)2832
(2011.10.19 民団新聞)