
「実態見つめ関心を」
パク・ジョンボム監督 隠れた差別を映画で訴え
韓国社会の片隅で、孤独を背負いながら生きる脱北青年の姿を追ったパク・ジョンボム監督の初長編映画「ムサン日記〜白い犬」(配給=スターサンズ)は、脱北者に対するソウルの冷たい現実と青年の行き場のない焦燥を描いている。主人公のモデルは、パク監督の友人で実際に北韓の咸鏡北道、茂山(ムサン)から脱北した故チョン・スンチョルさん。韓国に暮らす脱北者は07年に1万人を超え、現在は2万3500人以上とされる。日本でも約200人が生活していることはあまり知られていない。年々、脱北者が増える現実の中で、むしろ韓国では人々の関心が低くなっている。
韓国ではこの映画を通して、初めて脱北者の日常を知ったという人たちも少なくなかったという。一部の脱北者を除けば、その多くは韓国社会に馴染めず、経済的にも精神的にも厳しい生活を余儀なくされている。
幸せを求めて韓国にやって来たスンチョル(パク・ジョンボム監督主演)も例外ではない。
北韓のムサンからやってきたスンチョルが、脱北仲間のギョンチョルと住むアパートはソウルの再開発地区。大都会に建物の取り壊しでぽっかり空いた風景は、スンチョルの心を映し出すかのようにもの悲しい。
不器用で、おかっぱ頭に古い服。誰から何を言われても変える気はない。まるで身体も心も覆ってしまう鎧をまとっているかのようだ。
脱北者を示す住民登録番号「125」によって職に就くことができず、やっとありついたポスター・チラシ貼りも、同じポスター貼りの不良グループとトラブルになる。殴られても蹴られてもスンチョルは無抵抗だ。ただ耐えるだけのその表情からはまだ、彼の真意は読みとれない。
仲間同士も心を開かず
スンチョルに親友と呼べる人間は一人もいない。ある日、白い犬を拾う。子犬の名前は白い犬を意味するペック(白狗)。彼が唯一、心を開くことのできる友だちだ。
韓国社会の見えない差別の中で、互いに励ましあえる脱北者仲間にも心を開こうとしない。それは、彼が北韓で生き抜くために罪を犯し、脱北してからもなお「自分だけが幸せになっていいのか」と、一人でその過去を背負って生きてきたからだ。
帰ることも進むことも
思わぬ大金を手にしたスンチョルは髪を切り、スーツを着る。最初はぎこちないが人々の輪に加わり、次第に溶け込んでいく。そんなとき、彼の純粋さと道徳性を象徴するペックが死ぬ。彼がこれで、捨て切れなかった過去と決別したことが示される。
現実の韓国社会は脱北者にあまりにも冷たい。帰ることも先に進むこともできない八方塞がりの中で、彼らは喘いでいる。犬の死骸を見つめるスンチョルの背中が痛々しい。
脱北者の存在が異常ではなくなった韓国で、人々の関心は年々、低くなっている。パク監督はこの映画に、脱北者の実態を知り関心を持ってほしいとのメッセージを込める。
本作はプサン国際映画祭、ロシア・タルコフスキー映画祭、イタリア・ペサロ映画祭などで受賞するなど、世界で高い評価を得てきた。
12日から東京・渋谷のシアター・イメージフォーラムなど、全国順次公開される。
(2012.5.23 民団新聞)