

映画「プンサンケ」
ブラックコメディーながら根底に「離散」の悲しみ
韓国映画界の鬼才、キム・ギドク監督が南北統一の実現を願い、3年の沈黙を破り脚本を手がけた「プンサンケ」(原題=豊山犬、配給=太秦)は、南と北の不条理な現実を痛烈な皮肉をもって突きつけている。メガホンを取ったのは、キム監督のもとで助監督を務め、海外からも注目される新進気鋭のチョン・ジェホン監督(34)だ。離れ離れになった家族の悲しみを背負い、38度線を飛び越えて南と北を行き来する運び屋のプンサンケ(豊山犬)にチョン監督は何を託したのだろうか。(インタビュー構成)
北韓留学生対面の衝撃
私は高校生の時にアメリカに移民した後、オーストリアに移りました。オーストリアの音楽大学で学んでいた20代の時に、北韓の留学生も来ていました。韓国では70年代、「北は敵で、勝たなければならない相手」という教育を受けました。それまで北韓の人は殺人鬼みたいに思っていたのに、北韓の学生はすごく音楽が上手だったんです。それを知った時に衝撃を受けました。
でも北韓の学生と出会った時、お互いに警戒して、初めは言葉を交わすことができませんでした。その時、これが自分にとっての分断だと思いました。私は韓国の兵役に行かなかったので、違う視点で韓国と北韓を見ていたと思います。
主人公のプンサンケは、統一そのものだと考えています。個人的には戦争は嫌いです。私が思う戦争とは、お互いに傷つけ合って、死ぬしかない。映画を撮るにあたって、プンサンケという人が軍人ではない方がいいと思いました。
大部分の戦争映画は戦闘シーンがあったりして派手です。主人公は必ず軍人で、格好いい飛行機や戦車が出てきますが、私は生まれてから一度も戦車などを見たことがありません。自分にとっての戦争とは、オーストリアで会った北の人とか、脱北者だったり、つまり人そのものが戦争につながるんです。
私にとって分断そのものがブラックコメディーみたいなものです。38度線は歩いて渡れるはずなのに、電話の1本もかけられない、離散家族の生死も分からない。とても悲しいコメディだと思います。
ラストシーンでは、密室に韓国の情報員と北の工作員が閉じ込められます。私にしてみれば密室にいる時にお互いに話をして、一緒に外に出ていけばいいだけの話ですが、でもそれはできない。私は本当に対話の交流が必要だと思っています。
南にも北にも属さないプンサンケが、北韓の女性を好きになったという設定は、彼は神のような存在だったかも知れないが、女性のために普通の人間になったという表現です。南北間だけの映画だったら面白くありません。だから女性の存在が重要でした。
低予算でも満足の作品
この映画は予算に限界があって、たくさんのことを放棄しましたが、韓国の映画界にこういう映画が作れるというのを見せたかったし、低予算の映画は面白くないというイメージも壊したかった。
撮影の前に「帰らざる橋」に行きましたが、たくさんの人が本当に統一したいと思っていると感じました。私の母方の祖父は北の人です。祖父の家族に会えないことは寂しい。分断の悲しみは、長くなればなるほど、家族という関係が薄くなってしまうことです。この映画を撮りながらも、手紙だけでも送れたらどんなにいいかと思いました。
撮影期間は1カ月くらいでした。12月の寒い日に水に入ったり、泥を塗らなくてはいけなかったので、すごく大変でした。皆が逃げて行かなかったことに感謝しています。
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「プンサンケ」は8月18日から東京・渋谷ユーロスペースでロードショー。25日から銀座シネパトスほか全国順次公開される。公式サイト http://www.u-picc.com/poongsan
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ストーリー
38度線行き来の運び屋 結末は
正体不明の男(ユン・ゲサン)は、ソウルからピョンヤンまで38度線を行き来し3時間以内に何でも配達する。運ぶのは、離散家族の手紙やビデオメッセージ。北韓製の煙草・豊山犬を吸う男はプンサンケと呼ばれていた。
ある日、亡命した北韓の元高官の愛人、イノク(キム・ギュリ)をソウルに連れてくるという依頼が舞い込む。境界線で危険な目に何度も遭ううちに、2人の間には微妙な感情が生まれていた。イノクを引き渡したプンサンケは、依頼者の韓国諜報員に拘束され、拷問を受ける。「おまえは北と南、どっちの犬だ」。そんな中、亡命した元高官を殺すためソウルに潜伏していた北韓の工作員までもが介入し、先の見えない衝撃の結末へ突入していく。
(2012.6.13 民団新聞)