
急増する来日公演
訪韓観劇のリピーターも
昨年日本で初上演された『ミュージカル 宮』や『美女はつらいの』を皮切りに、来日公演が急増している韓国ミュージカル。9月から東京・青山劇場で『ジャック・ザ・リッパー』、10月から大阪・松竹座での『RUN TO YOU〜俺たちのストリート・ライフ〜』以降も来日予定作が多数控えている。
いずれも韓国で話題を呼んだ作品ばかりだが、日本公演ではオリジナルキャストとは違い、K‐POPアイドルや韓流スターたちが主演に起用されている。日本での知名度や集客力を考慮してのことだが、最近では韓国国内でも同様の動きが見られるようになってきた。
チケットの壮絶な争奪
きっかけとなったのが2010年に『モーツァルト!』に出演したJYJのキム・ジュンスだ。出演発表当時、日本では東方神起が空前の大ブレイク直後にジュンスを含むメンバー3人が突如脱退を宣言し、大パニックとなった後だった。韓国に行ってでもジュンスの姿を一目見たいと渇望しているファンたちの間で壮絶なチケット争奪戦が展開され、発売直後に彼の出演日のチケットが完売してしまったのだ。
かつてどんなトップ俳優でも成し得なかったことをアッサリとやってのけたジュンスの偉業は、韓国ミュージカルの興行に大きな変化をもたらした。アイドルの起用が増えたのはもちろん、チケットの販売方法、日本語字幕つき上演など、日本からの集客を積極的に行おうとする動きを一気に加速させた。
その後もジュンスは『天国の涙』『エリザベート』と大型作品に主演し、興行記録を次々と塗り替えダントツの人気を誇っている。
その一方で、もともと日本のミュージカルを見ていた観客たちが、韓国ミュージカルの世界を知ってどっぷりハマってしまう現象も起きている。日本のミュージカルシーンに比べて俳優の層が厚く、優れた歌やダンスの実力を持つ俳優が多数存在するため、最近では毎月のように海を渡り、韓国で観劇しているへビーリピーターもいるほどだ。
加えて、韓国国内で映画・ドラマ・舞台俳優のボーダーレス化が進んでおり、たとえばミュージカルシーンではトップクラスの人気と実力を持つオ・マンソクやオム・ギジュンは近年ドラマや映画に精力的に出演し、舞台仕込みの演技力で視聴者を魅了。その人気がそのまま主演作の観客動員にフィードバックされている。日本からもドラマを通じて知ったミュージカル俳優の演技を生で観たいと、劇場を訪れるファンも増えているのだ。
大学路など小劇場にも
筆者が韓国の舞台を見はじめた2006年頃は、日本人の観客はほとんど皆無で劇場スタッフに珍しがられたものだが、今では大劇場公演だけでなく、劇場街・テハンノ(大学路)の小劇場でも多くの日本人を目にするようになった。
しかし、まだそのほとんどがお目当ての歌手や俳優を見るためだ。来日公演も今はアイドルスターの集客力頼みだが、韓国ミュージカルの真の醍醐味を観客に味わってもらうためには、実力あるミュージカル俳優の出演もしっかりと盛り込んだ作品の上演を根気よく続けていくしかないだろう。最終的に韓国ミュージカルの観客として残るのも、そういった部分をちゃんと見ている人たちだからだ。
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プロフィール
さいきいずみ テレビ誌の編集、ライターとして2004年から韓国エンターテインメント取材を担当。06年から韓国の舞台を見はじめ、現在韓国に留学しながら取材活動中。編集、執筆を担当した、韓国ミュージカルを日本で初めて本格的に紹介した『韓国ミュージカル・ガイド』(新書館刊)が発売。
(2012.8.15 民団新聞)