

設立は1942年2月。戦争を体験した数少ない劇団の一つとして、「戦争と日本人」や弱者などをテーマにした作品を発表してきた劇団文化座(東京・北区)が、日本人の少女との恋愛を軸に、在日韓国人少年の葛藤と成長を描いた、金城一紀さんの自伝的小説『GO』(講談社)を舞台化。19日から東京芸術劇場シアターウエスト(豊島区池袋)で上演する。在日をテーマにした作品は初めてだ。同座代表で女優の佐々木愛さんに聞いた。
無知が生む憎悪発言「いいと思う人はいますか」
小説『GO』は00年に直木賞を受賞し、翌年に映画化された金城さんの代表作。佐々木さんは「初めて読んだ時、新世代の在日少年の真っすぐな生き方に暗いイメージはなく、私たち日本人には分かりやすかった」という。これまでとは異なる在日像を見たのだ。
同座はこれまで、歴史の闇に埋もれていた人たちや、沖縄、アイヌの人々をモチーフにした作品を数々、発表してきた。8月の全国公演では、沖縄戦で亡くなったアイヌ兵を描いた「銀の滴降る降るまわりに‐首里1945」を上演した。このような作品を手がける時の思いがある。
「私の後に続く文化座の若い俳優たちは、こういう作品をやることによって沖縄戦のことやアイヌの人たちのことを勉強した。今回『GO』をやることで、今まで自分たちが通りすぎていた在日問題を考えるきっかけになるし、そういう意味では若い人たちが中心になるこの作品を、今やることはいいことだと思った」
両親の志を受け継いで
これら重い作品を手がけるのは、同座が歩んできた歴史が大きく影響している。
同座は42年、佐々木さんの両親である演出家、故佐佐木隆さん、女優の故鈴木光枝さんらによって結成された。45年6月、戦争に縛られない芝居ができると新聞社の斡旋で旧満州に渡り、そこで敗戦を迎えた。2歳半だった佐々木さんは日本に残された。
両親たちは敗戦で情報が途絶え、逃げ惑う人や亡くなった人、置き去りにされた日本人たちの多くを目の当たりにした。
1年の抑留生活を余儀なくされた後、46年に帰国。47年に上演した「春香伝」では、母、光枝さんが春香を演じた。上演について「父の演出助手をしていた人のお父さんが韓国の人だった。また父が尊敬していた演出家の村山知義さんが、日本で最初に春香伝を演出したという影響もあったと思う」と説明する。
実は佐々木さんも72年に春香を演じている。運命的なものを感じたという。
「春香伝をやって以来、こんなにも在日の方がいるのに、正しい歴史などがきちんと教えられていないと思ってきた。だからヘイトスピーチのような恥ずかしい状況がある。前から何か作品ができないかと考えていた」
父、隆さんは自分の主張は誰にも犯されたくないと、独立独歩で貧乏しながら芝居を続けてきた。敗戦を経験し、戦争がいかに残酷なものであるかを実感した。「昔、朝鮮の人をかくまったこともあり、戦時下で朝鮮の人たちをないがしろにしている姿が父は、嫌だったと思う」。真実を見つめ続けてきた隆さんの精神は、佐々木さんに受け継がれている。
昨年と今年、慶北・浦項などで開催された演劇祭に参加した。今年初めて訪問した慶州ナザレ園では解放後、韓半島に取り残された日本人女性らに、三味線演奏や沖縄のカチャーシーなどを披露し、喜ばれた。「文化交流というのは、一つの小さな針の穴を開けるようなもの。私たちにはその役割があると思っている」
佐々木さんは取材中、以前、対談した『橋のない川』の著者、住井すゑさんの「あの本を読んで部落差別がいいと思う人はいますかって私は言いたい」という言葉を引用した。「この芝居を見終わった後、『日本から出ていけ』とか、ヘイトスピーチで差別的な言葉を吐くことがいいと思いますかって言いたい。私もその構えでいようと思う」と毅然と話す。
今、『GO』という作品に出会った時の感動を、一人でも多くの人たちに伝えたいという思いにあふれている。
公演日程 19日〜11月1日。一般5500円、高校生以下2750円。上演時間は要確認。申し込み・問い合わせは同座(℡03・3828・2216)。
(2013.10.16 民団新聞)