
奇跡の復活ベー・チェチョルさん
諦めず信じ続ける姿
共同製作の映画で描く…完成間近
韓国人テノール、ベー・チェチョルさんの実話を題材にした日韓共同製作による映画「THE TENOR」が間もなく完成する。
欧州のオペラ界でその頂点に手がかかっていたベーさんは2005年、甲状腺がんの宣告を受け、がん摘出手術の際に声帯と横隔膜の神経を切断。その後、日本で声帯機能回復手術を受け、奇跡としか言えない復活を遂げた彼の軌跡を追い、支え続けた日本人たちと家族の姿を描く。主演は韓国5大俳優の一角と言われるユ・ジテさん。撮影はヨーロッパ、韓国、日本で行われた。
映画製作未経験、挑むのは国際的規模の映画、しかも日韓合作。ほとんど全ての人、特にこれまで韓国との合作の多くが苦い結果に終わっていることを知る業界の方々が、絶対にやめるべきだと強く忠告して下さったのは当然のことだったろう。
しかし、それを振り払って突き進んだ「やむにやまれぬ思い」の中心にあったのは、やはり「日韓の未来」だった。加えて正直なところ「韓国とはやめておけ」と言われれば言われるほど「そんなことあるものか、俺が大好きな韓国人がどれほど凄いか見せてやりたい」、そんな子どもじみた、意固地とも言える気持ちが強くなったのも事実だ。
だが、それほどの思いを胸に進めていたにもかかわらず、撮影に入る直前に暗礁に乗り上げた。100階建てのビルの工事が、40階まで建てた段階で中断したようなものだった。
しかし、映画の世界では工事が止まればその瞬間に建物自体が崩壊するのと同じことだと分かった。自殺をする人の気持ちを初めて我身をもって知った。
さまざまな要因があるものの、一番の原因は、突き詰めれば「韓国人である相手を信じ切る」思いが私の中で揺らいだからだった。親の愛を疑う未熟者のような私の姿。しかしそれに気付いた瞬間から奇跡は起こった。 まるでフィルムを逆回転するかのように崩れたビルは元に戻り、何事も無かったかのように完成に向けて一気に動き出した。その後、数回危機的状況に直面したが、その度に人知を超えた力が働いた。同時に、韓国人の驚異的な底力、人間力を目の当たりにもした。
終わってみれば、一度は疑った相手が、私にとって人生で最も信頼できる大切な友となった。天から兄を授かったようだった。さらに加えて、私はこの絶望の谷を共に歩いてくれた在日の女性と結ばれ、いま彼女のお腹には韓国と日本の血を受け継いだ新しい命が宿っている。あの苦しみから私が得たものは計り知れない。
私はこの映画の主人公ベー・チェチョルさんの歌声に接する度に、「決して諦めず信じて歩むその先に、神様は必ず奇跡を用意して下さる」、そう感じずにはいられない。
両国の未来へ伝える使命感
今回私たちが製作することになったこの映画も、まさにべーさんの人生と同じような道をたどり生まれようとしている。ベー・チェチョルさん同様、彼の人生を描くこの映画も、日韓の未来に大きな使命を持って「生れてこなければならなかった」のだといま思う。
同じ親から生まれてきても、性格が全く異なる兄弟のような日本と韓国。そして簡単には乗り越えられない私たちの過去。しかし、にもかかわらず、それでもなお、だからこそ、私たちは兄弟であることを思い出したい。互いを尊敬し愛し合う関係になりたい。
べーさんの宝のような歌声。でも日韓の友情がなければ永遠に消えていた。この映画は観る人にそのことを思い起こさせてくれる、私は深くそう信じている。
(ヴォイス・ファクトリイ株式会社代表)
(2013.12.25 民団新聞)