掲載日 : [2004-07-28] 照会数 : 4598
銀幕に躍るハルモニたち 涙と笑いでつづる半生(04.7.28)
「翻弄された歴史」を生き抜いて
花はんめ
海女のリャンさん
HARUKO
1世ハルモニの生き様を描くドキュメンタリー映画が、次々に提供されている。在日のなかでも一番光が当たらなかった世代、かつ女性という存在に、なぜ今スポットが当たるようになったのだろうか。それは高齢化と世代交替の最終章を迎えた在日社会が、ただが
むしゃらに生きてきた1世の時代の明暗を冷静に見つめ直すという意味もあるだろう。同時に、植民地支配によって翻弄されながらも、たくましく生きてきた在日の歴史を風化させないとの思いの強さの表れと言えそうだ。
「夢なんかなかった。歌って踊って笑って、今が夢のようだよ」と、映画「花はんめ」(100分)のなかで口々に語る川崎市・桜本に暮らす在日1世のハルモニたち。 監督は2世の金聖雄氏だ。母の死後、歴史の渦に飲み込まれながらも、日本で生きてきた母たち1世の半生を記録に残したいと強烈に思うようになった。その頃、出会ったのがハルモニたちだ。在日社会では標準語のハルモニよりもはるかにリアリティがある「はんめ」という慶尚道なまりを映画のタイトルにした。
はんめたちの日常は週に一度、「トラジ会」での交流と、みんなから「清水の姐さん」としたわれている世話好きの孫分玉さんの部屋に集まり、キムチをほおばりながら語り、笑うことが軸になっている。それが楽しみでしようがない。生きがい、生きている証と言っても過言ではないほどだ。
ある日、はんめたちは恥ずかしがりながらも水着を買い求め、プールに繰り出す。童心に帰ったようにはしゃぎ、戯れる。そういうことは、幼い頃にも青春時代にも恐らくなかっただろう。はんめたちには、青春という言葉自体が存在しないのだ。プールで韓国の童謡「故郷の春」を合唱するはんめたち。はるかかなたに遠のいた故郷の日々を思い出しているのだろうか。
一方、一人のハルモニの激動の半生を描いたのが、「海女のリャンさん」(90分)だ。
1941年、25歳で済州道から出稼ぎに来た梁義憲さんは、7人の子どもをもうけたが、生活のために家族を大阪に残し、毎年3月から10月まで単身対馬に渡った。海女の生活を3年間にわたって記録したのが、歴史資料家の故辛基秀氏だ。38年前、梁さんが50歳の時のことである。
時には水深100㍍の海底にもぐり、潜水病にかかったこともある。家族に仕送りを続ける労働は、常に死と隣り合わせだった。「何のために生まれ、こんなに辛い思いをするのかわからない」と海のなかで人知れず涙を流す。
未完となったフィルムを原村政樹監督が受け継ぎ、「北送事業」など当時の貴重な映像を織り込みながら、日本、韓国、北韓に別れて住まわざるを得なくなった家族の切ない絆を描いている。引き裂かれた家族について、「誰のせいにもできない。時代のせいにするしかない」とつぶやく梁さんの苦しい心情が胸に迫る。植民地支配と南北分断を背負った在日の歴史がここにある。
このドキュメンタリーは現在、日本人と在日との共生社会づくりの一助になれば、との思いから自主上映を続けている。 さらに、もう一つ。なりふりかまわぬハルモニ、鄭秉春(金本春子)さんの生き様を照らしたのが「HARUKO」(81分)だ。
03年9月、フジテレビで放送されたノンフィクション番組「母よ!引き裂かれた在日家族」は、高視聴率をあげただけでなく、日本の放送文化の質的向上に尽くした優秀番組に贈られるギャラクシー賞も受賞した。
同年11月に本人を招いての番組上映会が開かれ、その後も在日社会を中心に好反響が続いたことから、フジテレビが初のドキュメンタリー映画製作に踏み切ることになった。いわくつきの作品である。
1917年生まれの彼女は12歳で日本に渡って来たが、8月15日の解放で故郷の済州道に戻った。しかし、4・3事件に巻き込まれ、再度日本へ。7人の子どもを養うために、東京・新宿でヤミ米商などに手を出し、その結果、37回も逮捕されてしまう。
そのような哀しい母の姿をずっと記録していたのが、朝鮮総連に属していた息子であった。戦後の在日50年史を描いた呉徳洙監督の記録映画「在日」にもそのシーンと本人のインタビューが収められているので、ご覧になった方も多いのではないだろうか。
夫婦の対立、親子間の価値観の違い、葛藤の末に、ハルコは今、何を思うのか、そう私たちに考えさせる。
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映画の上映案内
「花はんめ」の上映は今月31日の15時と19時の2回、東京・水道橋のYMCAアジア青少年センターを皮切りに、8月14日から約2週間、東京のシネマアートン下北沢で始まる。大阪での上映は8月19日から22日まで阿倍野区民センターで予定。問い合わせは上映委員会(℡03・3355・8602)まで。
「海女のリャンさん」の16㍉フィルム、またはビデオの有料貸し出しについての問い合わせは、桜映画社(℡03・3478・6110)まで。
「HARUKO」の上映に関する問い合わせは、ポレポレ東中野(℡03・3362・0081)まで。
(2004.7.28 民団新聞)