掲載日 : [2007-11-08] 照会数 : 3323
<読書>私の祖国は世界です 在日から見た様々な人々
著者は神戸で生まれ育った在日2世の女性である。日本の近代化によって、世界に開かれた港湾都市になった神戸は、外国人居留地の建設とともに貿易港として発達してきた。その都市計画を推し進めたのが、初代兵庫県知事の伊藤博文で、後に韓半島植民地化にも政治的手腕を示した。さらに、この植民地政策が済州道出身の両親の日本移住を余儀なくし、自身が神戸で生まれることにつながったのを知り、歴史の皮肉を感じる。
朝鮮学校出身の著者は、祖国への帰属意識と将来の選択肢に答えを出そうと、すでに姉が60年に「帰国船」で渡った北韓を、81年にやっと「家族訪問団」の一員として訪れることができた。そこで実感したのは、祖国と故郷は違うということだった。南北韓、中国朝鮮族、ベルリンなどの記述が、重量感を持って迫ってくるほか、今年7月に亡くなった夫、小田実との出会いやべ平連の運動なども記録されている。
巻末に寄せた故人の言葉が、彼女をして闘う在日であることにピリオドを打たせないのだと感じる。「彼女がいつも日本に対して嘆かわしく思うのは、(中略)もっと大きく、開かれた日本であったのが、今、日本人は誇りと自信を失ってきているのか、その結果として偏狭な愛国心に毒された『美しい国』になりつつあるように見えることだ」。
(玄順恵著、岩波書店2400円+税)
℡03(5210)4000
(2007.11.7 民団新聞)