掲載日 : [2007-10-24] 照会数 : 3545
<読書>族譜・李朝残影 民衆側から見た植民地支配
1975年、当時流行作家だった梶山季之が45歳で亡くなった。33回忌にあたる今年、ゆかりの地である広島でシンポジウムや文学資料展が開かれたり、私財を投じて創刊、責任編集をしていた月刊誌『噂』の再録と関係者の話などを収めた書籍が発刊されるなど、過去の業績が再び脚光を浴びている。
岩波書店も旧作品の再照明を手がけ、今年7月から9月にかけて3点を刊行した。そのうちの一つが本書である。
61年9月に発表された「族譜」は、創氏改名がもたらした非人道を鋭く突き、63年3月に発表された「李朝残影」は日本軍による堤岩里の民衆虐殺事件をテーマにしている。両作品とも韓日国交正常化前の対韓関係が良好ではない時代のものである。
韓国併合下での民衆の受難と植民地支配の非を告発する小説を、なぜ、梶山は書いたのだろうか。若い読者は素朴な疑問を抱くだろう。
それは、梶山が植民地時代の朝鮮で植民地政策を遂行した官僚の家庭に生まれた事実と葛藤に起因すると思われる。常に民衆の側に立って生み出された作品の評価は韓国でも高く、40冊以上が翻訳されているという。
「族譜」について付記すれば、昨年秋に日本の劇団青年劇場が東京で公演し、好評を博した。再演を望む声に応えて今秋の公演を決めた。
(梶山季之著、岩波現代文庫800円+税)
℡03(5210)4111
(2007.10.24 民団新聞)