掲載日 : [2007-09-26] 照会数 : 3941
「学んで知ろう」大阪で産声 文化を言葉の情感を
[ 喫茶店で学ぶ仲間たち。写真中央(円内も)が廣岡冨美さん ]
「韓国の詩を原語で読む会」
「時調」研究家の廣岡冨美さん
毎月1回、大阪生野区の鶴橋駅近くの喫茶店から韓国語による詩の朗読が聞こえてくる。この集まりは、今年8月に、歌人で韓国の伝統的定型詩である「時調」の研究家でもある廣岡冨美さん(76)を中心に発足した「韓国の詩を原語で読む会」が開いている。詩を通して韓国の文化、韓国語特有の素晴らしい響きなどへの理解と、さらには歴史認識を深めてもらいたいと始まった。「韓国と日本の両方に故郷がある」と話す廣岡さんに聞いた。
「育った国に宿る精神」
歴史認識への理解も願い
「韓国の詩を原語で読む会」の会員は、在日韓国人と日本人で構成される10人。第1回目の集まりでは、詩人、金素月さんの代表的な詩「つつじの花」を韓国語で朗読した。
廣岡さんが韓国語にこだわるのは、日本語では表現することのできない情感を伝えたいという思いから。発音指導にあたる韓国人留学生の姜信英さん(44)は、何度も練習を重ね、発音を修正する。会員たちも発音を真似ようと一生懸命だ。
廣岡さんをかたわらでサポートするのは姜さんをはじめ、事務局の業務を担う在日韓国人の圭通さん(66)の2人になる。実はさんは廣岡さんの大ファンで、廣岡さんの「韓国の『時調』や『詩』を原語を読むことで、その国の文化が伝わる」という考えに共感している。
廣岡さん、さん、姜さんの3人は、韓国の詩を日本に暮らす在日韓国人、日本人に広めたいという思いを込めて活動を続けている。
懺悔の気持ち抱えて生きて
廣岡さんがこのような活動を行う背景には、自らの出自が大きく影響している。
1930年韓国・大邱生まれ。日本の敗戦で引き揚げるまでの15年間を韓国で暮らした。「韓国の風土と気候、自然によって今の自分が形成された。故郷は韓国と日本の両方にあります」と当時を懐かしみながら話す。
だがその一方で、植民地時代に日本人が韓国人に行ってきた行為に対し、同じ日本人として懺悔の気持ちを抱えながら生きてきた。
廣岡さんはその後、大阪の相愛高等学校・中学校の教員として教壇に立った。韓日の歴史については、自ら制作した教材を使って生徒に教えた。通名を名乗っていた在日韓国人の生徒が、自分の出自を明かしたこともあった。現在も当時の教え子たちが廣岡さんを慕っているという。
定年退職後、ソウルの高麗大学校韓国語文化研修部に留学。教員時代に知った「時調」の研究を深めていった。これまでに歌集「八月」「迎日の海」「光化門」を出版。近現代の作品を集めた「韓国近現代時調選集」(00年10月、土曜美術社刊)で翻訳なども手がけた。
伝え継ぐのは自然の流れ
「韓国の詩を原語で読む会」のもう一つの特徴は、歴史などについて話し合う点にある。
廣岡さんは「韓国とは誠実と信(まこと)で付き合うしかない。かつて朝鮮通信使が『信』を通わせたように。それには歴史を知るしかありません。日本の教科書は日本軍の侵略があったと書いてもその実態を何も教えない。多くの学生たちが往来しても、韓国と日本の歴史認識がかけ離れています」と指摘する。
教員時代、独自の教材を使用した背景には、歴史の闇に閉ざされた真実を伝えたいという思いがあった。さらに「私の身体の半分には韓国の精神が宿っています。韓国の文化を伝えていくのも自然の流れ」だと話す。
今月25日には2回目の集まりをもった。「皆さんのサポートをいただきながら、さらに会を発展させたい」と、多くの参加者を呼びかけている。
参加費は300円と各自の飲食代。問い合わせは事務局(℡、FAX06・6741・4178)圭通。
(2007.9.26 民団新聞)