掲載日 : [2008-11-06] 照会数 : 3594
<読書>海鳴り 分断の痛みはいつまで続く
徴用で強制連行された叔父は、長野・松代の地下壕工事現場から脱走し、兄である私の父を頼って京都に逃げてきた。初めて肉親と知らされ会った日、甥である私は一緒に海水浴に出かけ、ふざけて海面に小石を投げたら、叔父の頭を直撃し、出血させるほどの怪我を負わせてしまった。
心の傷が今も癒えないのは、その叔父が非業の死を遂げたからだ。三沢に働きに出ていた叔父は解放後、大湊から船で故郷に帰ると代筆されたハガキをよこした。
しかし、その船、浮島丸は45年8月24日、舞鶴港への入港時、突然の爆発で沈没した。浮島丸事件である。
乗船名簿には、叔父の名前はなかった。学校の門をくぐったこともなく、自分の名前すら書くことができなかったせいかもしれない。
故郷に帰った事実がないことから、海の藻屑となり、海底に留め置かれたままかもしれない。私の心はひっかかっている。
被災者の怨恨が今も海鳴りのようにこだまするタイトルの「海鳴り」をはじめ、従軍慰安婦にされたおばさんの消息を描いた「山つつじ」、望郷の念を激しく抱きながら、朝鮮総連に従事する子どもらに訪韓を反対された亡き父母に代わって、母の故郷を訪ねた娘の視点で語る「密陽の里」など、90年代半ばの作品を中心に短編5編を収めた。
(辛榮浩著、新幹社1500円+税)
℡03(5689)4070
(2008.11.5 民団新聞)