掲載日 : [2008-06-28] 照会数 : 6722
様変わり 同胞社会の葬儀(下)
残したい民族固有の流儀
家庭教育の柱にも
故人の歴史性に思い寄せ
人生の最後を飾る葬儀をどうするか。親子間の関係性や、価値観の相違などが大きく影響する葬儀。今、同胞社会から伝統的な儒教式葬儀が消えつつあるなかで、民団神奈川県本部(殷鍾七団長)の「無窮花サービス」は1998年から民族的要素を取り入れながら、時代に沿った葬儀サポートを行っている。この伝統的葬儀は親子愛、親や祖先に対して真心を尽くし、そして敬うという民族固有の精神文化によって支えられている。
流れは日本式
寂しいが本音
「伝統的葬儀は残したいとは思うけど、やる人たちが求めにこないし、やらないものを無理にはいえない。時代の流れで簡素化になり、無駄なお金は使わないという風潮になっているから仕方がない」。東京・浅草で今年創業35年を迎えた韓服店の「伊藤商店」で、夫の尹暎照さん(69)とともに店を切り盛りしてきたのが妻の金春子さん(65)。
故人の着る寿衣や遺族の衣裳も扱ってはいるが、購入者は激減している。「伝統葬儀が行われていたのは10年くらい前まで。全盛のころは亡くなれば買いにきたが、今は10人に1人くらい。寿衣を知っている人も少なくなったし、みな、日本式になってきている」。春子さんは現状を受け入れざるを得ないとしながらも「寂しい」と本音を話す。
「民族性がどんどん薄くなっている」と語るのは、東京・上野で創業53年目を迎えた韓服店「群山商店」2代目の金哲雄さん(49)。「群山商店」には年間100件の葬儀衣裳に関する問い合わせが、北海道から関東近県までの地域から寄せられ、その半数は購入する。「最後の服」だからと注文する人もいる。
「昔はお金に余裕があれば、お寺を借り切って韓国式葬儀をやっていた。でも今は斎場が便利になり、費用や火葬の問題などもあって日本の葬儀社に頼むことが多くなっている」と減少理由をあげる。さらに「あとは1世の方が葬儀の流儀を伝えてこなかった。家庭での教育が問題」だと2つ目の要因を指摘する。 韓国には先祖を敬えば、その家庭が繁栄するという言い伝えがある。毎年行うチェサには、親族が集まって両親や先祖の思い出を語り、自分たちも繁栄していこう、みな、仲良く暮らして行こうという意味合いが込められている。
だが親が韓国式で送ってほしいと希望しても、それを子どもはどう受け止めるかはまた別問題のようだ。「親の歩んできた歴史をどのように考えるかです。父親は立派な韓国人だった、だから韓国式葬儀で送ってあげるのが筋、だと思っている方々がそのようにする。これも親から受け継いだ教育ではないか」
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無窮花サービス利用の葬儀
韓国色を随所に加味 心込め赤い棺掛けも
先月、神奈川・横浜市の葬儀場で、無窮花サービスを利用した在日同胞の葬儀・告別式が営まれた。
故人の崔明特さん(77)は、横浜支部常盤台分団長として民団組織に貢献。元婦人会神奈川県本部会長で夫人の朴春子さん(72)は、「主人には寿衣を着せた。私たちは喪服を着ようと親族で決めた」と話す。
当日はあいにくの雨で、パリンジャ(出棺の儀式)は急きょ、屋内で執り行われた。
柩の手前にゴザを敷き、サン(膳)を設え、最後のチョル(礼)をした。また出棺前には茶碗を割り遺族、親族らが最後の別れを惜しんだ。
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「要望には全力で応じる」
何かの形で「らしさ」を
民団神奈川県本部が、団員の生活に密着した「役立つサービス」を提供しようと98年にスタートしたのが「無窮花サービス」だ。無窮花サービスの一つである葬祭サービスは県下全域と東京都内一部を対象に、葬儀の情報提供や施行の支援を行う。一般的な葬儀は民団と提携している葬儀社が施行するほか、オプションとして取り入れる韓国式儀礼については実務者が現場に出向く。
同本部民生部長で無窮花サービス担当員の崔喜燮さんは、「はっきりいって幅は広い。日本式葬儀を希望してくる方や、故人が民族的に生きたから韓国式葬儀をやりたいという方もいる。無窮花サービスでは事前相談から始め、そこで民族的な部分も十分に提案していけるシステムです。まずは電話をしてほしい」と話す。
もちろん、相談が間に合わず事故や病院、自宅で亡くなったときも、電話さえすれば寝台車を手配するなど、素早い対応を行う。
韓国式葬儀の陣頭指揮に当たるのが、葬儀アドバイザー・コーディネーターの安藤富久さん(オフィスグランマ代表)だ。この間の施行数は120件。そのうち6、7割の同胞が何らかの形で韓国式儀礼を取り入れてきたと話す。
安藤さんは韓国の葬儀儀礼を体系的に勉強したことはない。葬儀があるたびに親族たちから教えを請い、川崎市の桜本に何度も足を運んではハルモニたちから話を聞いた。供養膳も韓国料理店店主に聞くなど、同胞社会に根付く葬儀の有り様を会得していった。だからこそ「1世の方を送るときは、民族的なものを加味して送ってあげたいという気持ちは強い。事前に相談されたときは、必ずそのことは申し上げる」。
だが、相談者全員が韓国式を望む訳ではない。子どもが民族的なものを拒否しているケースもある。父親は父親、自分たちはチェサもやらないし、もう韓国人ではないと割り切る場合も。「家の方の考え方は千差万別。でも葬儀文化がすたれていくのは残念。これは生活に密着した文化であり、まさに精神です。在日の方たちはその文化によって育まれた民族。これは残したほうがいい」
崔さんは「無くなっていくものを無くならないようにしていこうというのが無窮花サービス。民族的な要素を入れて送りだしてあげたいという方たちの思いに応えていきたい」と抱負を語る。
また同本部の安亨均副団長も「40、50代が土壇場で困らない土台を作らないといけない。私たちが残すべきものをこういう形で学んでいくことが大事」だと強調する。
安藤さんは子どもたちが父親の功績、生き様などを過小評価することや、家族との関わりあいなどが葬儀や、その後の供養の仕方に反映されると指摘する。
「葬儀はその方の最後を締めくくる場。自分たちは父親のようには生きないからというのは別問題。せめて1世を送るときはもっと思いを祖国に寄せてほしい。おそらく本人たちも魂は故郷に帰りたいと思っているはずだ。私はそういうことをいつも感じながらお手伝いさせていただいている」。安藤さんの正直な気持ちだ。
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「伊藤商店」/(℡03・3841・5069)、(℡03・3842・7779)。
「群山商店」/定休日水曜日。(℡03・3835・3356)、夜間(℡03・3832・5606)。
「無窮花サービス」事務局(℡045・316・0508)平日9〜17時半。緊急時、365日24時間対応は「葬儀サポート」フリーダイヤル(℡0120・033・291)。
(2008.6.25 民団新聞)