掲載日 : [20-01-01] 照会数 : 16297
【特集】対談 韓日関係改善への道を探る
草の根民間交流で強い絆を
悪化が続く韓日関係の中、民団と日韓親善協会ではこの1年間、韓日の懸け橋として、「このような時こそ民間交流を」と、各地で朝鮮通信使行列の再現やシンポジウム、コリアフェスタ、韓日交流マダンなど、各地域で草の根民間交流活動を展開してきた。2016年に朝鮮通信使の記録がユネスコの世界記憶遺産に登録されて3年が経った。両国の民間団体が共同で結実させた朝鮮通信使をどう活用するか。また、1998年の金大中大統領と小渕恵三首相による「21世紀に向けた韓日パートナーシップ宣言」の精神を活かし両国の草の根民間交流にどのように繋いでいくのか。韓国民団中央本部の呂健二団長と日韓議員連盟幹事長であり、日韓親善協会中央会の河村建夫会長に対談を通じて忌憚のない意見を語ってもらった。
対談
日韓親善協会中央会会長 河村 建夫
韓国民団中央本部団長 呂 健 二
(司会 鄭眞一本紙編集長)
青少年交流、確かな成果 河村
通信使、釜山市説き伏せ 団長
--韓日関係の悪化が続く中、交流行事の見送りなど、懸念が多かったと思いますが、その中でも民団と日韓親善協会は活発な民間交流を展開してきました。特に強調すべき行事は。
河村 日韓親善協会では韓日親善協会と共同で、毎年、青少年の相互訪問イベントを実施しています。すでに32年目を迎えました。昨年は日本に受け入れる順番で、夏休みの時期である7月29日から8月2日までの6日間、韓国から高校生8人と大学生12人の合わせて20人を招きました。韓国大使館や民団中央本部をはじめ国会議事堂などを見学したほか、上野公園内にある日本に千字文と論語を伝えた王仁博士の石碑を訪ね、さらに、栃木県日光市に向かい今市の「朝鮮通信使今市客館跡記念碑」や日光東照宮など、日韓交流ゆかりの地を訪れました。
また、作新学院高校生徒や日韓学生交流団体の大学生らとの交流や日本の生け花体験など、充実した時間を過ごせたと思います。ご協力いただいた多くの関係機関の皆様には感謝しています。
感想文を読みますとある日本側の学生は「日韓関係が良くなかったこともあり、最初はとても不安でしたが、韓国の学生と会ってみるとその不安は一気に消えた。日を重ねる毎に仲良くなり、言葉の壁をこえてコミュニケーションが深まりました。今の冷え切った日韓関係でも、人と人との交流は全く関係ないことを学びました」と寄せていました。
受け入れる私たちも民間交流をしっかり進めていくことを確認していました。このように、民間交流は確実に根付いているのです。「即位礼正殿の儀」に合わせて来日した李洛淵総理は安倍首相と「民間交流はしっかりやっていこう」と声を揃えていました。
今年は日本から韓国に派遣する番ですが、万全に準備を進めたい。
呂 この事業はとても大きな成果があがっていると思います。微力ながら民団としてもお手伝いさせて頂きましたが、参加した生徒・学生たちの感想文を読んで、改めて感銘を受けました。
中でも韓国の学生が多くの友人に「こんな時に行って大丈夫なの?」と言われた上に、銀行に行って換金した時に「こんな時に何しに日本に行くのか」と銀行員から言われたらしい。こんな雰囲気を作ってしまったのは政治・マスコミの責任大だと思います。
そんな不安を持ちながらも全員が「日本に来て本当に良かった。言われていたこととはまったく違い、みんな仲良くなれた」と声を揃えていました。次代を生きていく青少年たちですからこのような触れあいがとても大切と痛感しました。
河村 行政では若干、意識している部分もあると思いますが、民間はそれとは関係なく、絶やすずに継続していくべきですね。
--特に昨年春、釜山で行われた朝鮮通信使祝祭や夏に対馬で開催された朝鮮通信使の行列を再現する厳原港まつりも無事開催されましたが。
河村 そうそう、朝鮮通信使行列の再現は下関でも開催されましたね。行政の部分での参加は多少後退しましたが、民間では途絶えさせずにしっかり継続しました。
呂 私は釜山と対馬の祝祭に招待されて現地を訪れましたが、日本からも朝鮮通信使の縁地などから多くの方が訪れ、1500人のパレードで盛り上がりました。その時に朝鮮通信使船の復元船が披露された。この船が対馬に行く予定でしたが、釜山市が真っ先に交流をストップさせたこともあって実現できなかったことが残念です。
厳原港まつりにも訪れましたが、釜山市長が朝鮮通信使行列を含む交流事業の全面見直しを一時、宣言しました。
それでも釜山文化財団の姜東秀理事長が「こういう時こそ民間交流を続けるべきだ。交流の歴史を途絶えさせてはならないと、メンバーらは自費参加も決意していた」と主張した。結局、市も折れ、予定通りパレードを実現させました。本当に素晴らしいことです。
--対馬を例に、日本を訪れる韓国人観光客の激減によって日本の経済状況にも影響が出ていると思いますが。
河村 特に対馬では年間40万人の韓国人観光客を見込んでいましたから、相当影響を受けています。国としてもこれに対して支援策を考えているようで、予算編成の段階で地域活性化の意味で経済支援を考慮しているようです。
呂 民団では対馬支部を再建し、行政と協力しながら韓国人旅行者支援センターを立ち上げたのですが、事実上「開店休業」の状態です。対馬で観光に関わっている方々は頭が痛いと思います。
河村 そういう意味でも早急に正常化させるべきですね。
呂 逆に日本人の韓国訪問客は10月現在で前年よりも増加し約250万でした。激減した訪日韓国人の数とは対照的な動きを見せています。SNSやドラマを通じて韓国に親しみを持つようになった若い日本人女性が増えたと言われています。
幸いに新大久保や大阪鶴橋のコリアンタウンでは若い女性たちで賑わいを見せています。
河村 そういう意味でも日本の若い子たちは、日韓関係にはこだわらず、「好きなものは好き」と思っているのですね。
河村 今回の関係悪化の原因は「徴用工判決」から始まり、ホワイト国除外など経済的な摩擦を強めることになった。根幹を早く解決すべきだと思います。
呂 私たち在日同胞は戦前から日本に住み色々なことを経験してきましたが、両国の間に政治的な問題が起きる度に、韓国の行政は青少年交流や文化・スポーツ交流を止めたり、不買運動を引き起こしている。せっかく、民間交流のパイプが太く根付いているのに、同調圧力のように煽っているが、民間の人たちの本意ではないと思います。
民間交流にまで影響を及ばないように、政府やマスコミに声を大にして言いたい。
韓日交流マダン全国各地で盛況
--韓国人と日本人が一つになって作り上げていく最大規模の韓日交流イベント「韓日祝祭ハンマダン」にも影響が憂慮されていましたが、無事11回目を迎え、来場者は過去最多だった2018年に次ぐ7万人余りを記録しましたが。
河村 逆に「こういう時だからこそ」と関心を持たれたと思います。やはり、民間は日韓関係の悪化を望んでいないという気持ちの表れです。その前にソウルで開催された日韓交流おまつり・イン・ソウルに私も招かれました。大変盛り上がりを見せていました。特に、日本の着物や浴衣を試着して記念撮影ができる文化体験ブースは韓国の若者たちに大人気でした。
その意味でも民間交流は純粋に進んでいる。ただ、行政が絡むとそこに色々な忖度を与えたりする部分が無きにしもあらずです。いずれにしても日韓・韓日交流おまつりは両国ともに大成功を納め、安心しました。
--民団でも各地で韓日交流マダンなどのイベントが盛んでしたが。
呂 民団では全国29カ所で韓日交流のマダン(広場)が開かれ、各地で盛況を見せました。特に意識したわけではないのですが、4月に愛知、三重、岐阜の3県本部と駐名古屋総領事館、韓国観光公社の共催で「韓国フェスティバル」を開催しましたが、10万人を超える人出で賑わいました。また、大阪本部でも秋に「韓日友好親善のつどい~多文化共生フェスタ」を開催し、2000人が来場しました。
面白いのは同胞が少ない四国の徳島本部が開催したK-POPコンサートには800人の市民が来場しました。
このように市民レベルは堅調なのです。民間交流を大切に考えている方が多くいることに心強さを感じます。いずれも各地の日韓親善協会と力を合わせて継続しているイベントです。韓日関係の善し悪しに関係なく普段から行っている草の根交流なのです。
98年共同宣言、今も新鮮 団長
過去を直視、未来志向で 河村
--韓日関係の悪化がヘイトスピーチにつながるのではとの懸念もありましたが。
呂 一部週刊誌やテレビのワイドショーでも反韓国意識を煽動するような特集が見られました。メディアとして、しっかりした姿勢を願いたいと考え、民団ではある出版社に「記事内容に驚くとともに心から憂慮している」「見出しや内容がヘイトスピーチだと受け止められてもやむを得ない」「弱者である子どもたちにどんな悪影響が及ぶか思いを馳せるべきだ」と指摘した申し入れ書を送りました。
その結果、出版社の責任者が民団を訪れ、「在日の方が受け止める思いについては想像力に欠けていた」と反省の弁を述べ、「何らかの形で社内で人権研修を行いたい」との約束を頂きました。
河村 統一地方選挙を前に選挙運動に名を借りたヘイトスピーチに対応する事務連絡が法務省人権擁護局から各地方の法務局人権擁護部に送られました。12月には川崎市が刑事罰を定めた条例を成立させるなど、根絶に向けて進展を見せている。悪意に満ちた言動に対してはしっかりと取り締まるべきと考えます。
ネット上のヘイトも大きな問題です。今、「ネット社会健全化推進議員連盟」の会長を務め、色々と議論をしています。
--懸け橋としての役割を担う民団と日韓親善協会の今後の役割と基本姿勢は。
河村 民間交流を推進していくことが日韓親善協会の役割でもあり、こういう時だからこそ民団としっかり連携して努力したいと思ってます。地域に根ざしている民団の方たちにとって日本が住みづらい国であってはならない。そのような意味でも我々が働きかけて日韓関係が正常化するように努力する気持ちです。
民間交流が活発であればこそ政府間も交流の深さを見て、今の状態が続くことは良くないと理解します。早くきっかけを掴みたいと思います。
呂 日本で暮らしている我々にとって韓日・日韓の親善活動は当たり前のことなんですよ。6月に来日した文在寅大統領との懇談会の席で私は「韓日関係は在日同胞にとって死活問題だ」と訴えました。11月に来日した李洛淵首相との懇談会では「韓日関係は我々にとって空気であり、この空気が汚れている今、在日同胞は息を潜めながら生活せざるを得ない状況だ」と伝えました。我々としても韓日の懸け橋としての意識をしっかり持ち、日韓親善協会と協力しながら民間交流を活発にしていく覚悟です。
--昨年11月の韓日・日韓議員連盟の合同総会の共同声明では98年の韓日パートナーシップ宣言の精神を活かすことを強調していましたが?
河村 私は機会あるごとに、この共同宣言を力説してますが、あの時の精神を活かすことで民間交流はもとより、お互いが力を合わせて正常化へ向かうヒントにつながると思います。
文喜相国会議長の提案などを見ても韓国側もこの共同宣言の精神を活かすための努力をしていると理解できます。我々もそれに対応する動きをすべきと思っています。
呂 共同宣言20周年の2018年に日韓親善協会と共催で記念セミナーを開催しましたが、改めてこの宣言を読み返すと、とても新鮮で画期的な意義を感じます。ぜひ韓日両国の政治家をはじめ多くの方に読み返してと言いたいですね。
河村 21年前のことで、すでに引退した議員も多く、現在の議員の大半があの議場にいなかったわけです。日韓関係の在り方に対する啓発の一環として、彼らにもしっかり読んでもらいたいと重ね重ね伝えています。
--率直な意見として、韓日関係改善への提言があれば。
河村 私としては文喜相議長が国会に提出している元徴用工の基金法案が成立することが一番の早道だと思います。我々としても韓国側の努力に敬意を払って注視しています。ことあるごとにパートナーシップ宣言の精神を強調しながら、金大中大統領が述べた「過去だけでなく未来志向で進もう」という言葉にあるように、互いにその気持ちになり、我々も過去を直視し、同時に未来志向で協力関係を作っていくことにつきます。
今の状態が続くことは互いの国益にとり、何のプラスにもならないし、一日も早く改善すべきだと強く思っています。
呂 日韓親善協会の会長であり、日韓議員連盟の幹事長を務めている河村先生のポジションはとても重要だと思います。民間と政治の両方を抱えていますから、民団としてもしっかり相談しながら韓日民間交流に最大限努力していきます。
河村 今年は東京五輪が開催されます。議員連盟でも「交流・協力実行委員会」設置が提案されました。それを具現し、実のある友好関係を築きたいと考えています。
呂 隣国同士の韓日は紀元前から今日まで様々な交流があった。また、良いときも悪いときもあったが、良好な時の方が圧倒的に多かったと思う。不幸な時期はほんの一時期。必ずや改善されると信じています。
(2020.01.01 民団新聞)