掲載日 : [2010-01-01] 照会数 : 8812
受難と忍耐の50年経て克服と雄飛の50年つくる
[ 韓国の永続的な成功の絶対条件は社会的統合力だ ]
韓日併合から100年
成熟を《知らない》実験国家−韓国の未来
韓国(韓民族)の過去100年を現在の視点で振り返れば、大きく3つの段階に分けられる。
1910年の韓日併合から45年の解放までは、自主近代化の希望を断たれ、経済資源や人的資源の過酷な収奪を受けながらも、独立・発展の気力と能力を鍛えた、いわば雌伏期と言える。解放後の約15年間は、南北分断の固定化をめぐる葛藤、同族相殺の6・25韓国戦争とその後遺症に苦しんだ、あまりに重い陣痛期だ。60年の4・19学生革命、翌年の5・16軍事政変を経たその後の50年間は、ウォーミングアップももどかしく全力疾走を続け、歴史上たぐい稀な成長を遂げた躍進期である。この100年を別な角度から見れば、前半50年を受難と忍耐の時期、後半50年を克服と雄飛の時期と呼ぶこともできよう。
前・後半の半世紀でこれほど際立って異なる顔を見せた国(民族)はあるまい。見えてくるのは、ダイナミックで意外性のある国、まるで成熟することを知らないかのような実験国家の姿だ。世界から称賛と注目を集める韓国はしかし、全力疾走してきただけに歪み、疲労も残した。「一流先進国」を目指す韓国の課題は何か。
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近代化の成功モデル
戦後独立国の唯一例
第2次世界大戦以降に独立した140に近い国家のうち、韓国は唯一、近代化に成功した国と言われる。政治的な民主化、市民的権利や言論自由の伸長、経済成長と産業構造の高度化、高等教育や科学技術の進展、社会文化的な多様性、海外への進出や貢献など、どの基準から見てもそうした評価は揺るがない。また、植民地経営という歴史的な汚点を残すことなく、近代化に成功した唯一の国でもある。
韓国国民の一般的な観点からは、最貧国から短期間で中進国に到達した実績から、先進国への進入も十分可能であり、そうなればおのずと韓国中心の統一に至る、との筋書きが見えているようだ。
欧州でベストセラーになり、日本でも強い関心を呼んだ『21世紀の歴史』の著者ジャック・アタリ氏は、ソ連崩壊、金融バブル、新たなテロの脅威、インターネットによる世界の変化など、予測を的中させた経済学者、思想家だ。彼は同書で、東京が世界の中心都市になる可能性は「開放精神の欠如」によって奪われたと指摘し、韓国についてはこう予測した。
20数年後には、世界の生産の過半を占めるアジア地域のなかでも、最大の勢力となるのは韓国であり、1人当たりGDP(国内総生産)は2025年までに2倍になる。韓国は新たな経済的・文化的モデルとなり、その卓越したテクノロジーと文化的ダイナミズムによって世界を魅了し、東南アジア諸国はもちろん、中国、日本でさえ韓国を「成功するためのモデル」として模倣するようになる。
ゴールドマンサックスが07年、世界経済展望報告書で、韓国の1人当たり国民所得は2025年には5万㌦とG7国家水準に、50年には9万294㌦となって、米国の9万1683㌦に次いで世界2位になると展望した。ちなみにドイツと日本は同じ時点で6万㌦と予想されている。
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短期成長のひずみ
社会の統合力に課題
数10年先の未来図が現実のものになるか否かはともかく、韓国の実績と潜在能力が高く評価されていることは間違いない。では、成功の永続は何にかかっているのか。
アタリ氏は同書で、北韓による2つの破滅的なシナリオを避け、独自の路線を切り開く能力があるかどうかにかかっていると警告する。そのシナリオの一つは、北韓独裁政権の崩壊によって南北統一を余儀なくされ、膨大な経済的コストを負う懸念。もう一つは、北韓が仕掛ける破れかぶれの軍拡競争が、韓国の半世紀にわたる奇跡の経済成長を無に帰す可能性だ。
韓半島の平和定着と軟着陸的な統一の実現をどう導くかは、韓国の最も重要な課題である。だが、現在の韓国にはその重要課題に能動的に対処するためにも、成功の永続性を保障し「先進一流国家」に飛躍するためにも、解決・解消しなければならない問題をいくつも抱えている。
それは何か。本源的な国力とも言うべき政治への信頼、社会的な統合力、経済効率と産業競争力、福祉など社会的安全弁の充実、効果的な軍事力、そしてこれらを背景にした強靭な外交力だ。その多くは国民的なモラルの問題にかかわるといって過言ではない。
この間の近代化が短期間に圧縮、あるいは爆発的に進展したために、その後遺症とも言うべき歪(ひずみ)が多くの分野で蓄積された。調整と成熟の期間を経て、本源的な近代化を遂げることには成功していない。韓国は類例のない成功で「ハングリー(空腹な)社会」から脱出したものの、その対価として未曾有の「アングリー(険悪な)社会」に変貌したと国内の識者らは憂える。世界最低の出産率、世界最高の離婚増加率と老人自殺率などは、そうした社会不安の反映と言えよう。
政策の立法・執行に対する過剰な反発の常態化、経済効率や産業競争力を犠牲にする過激な労使紛争の頻発、一部メディアに踊らされた一昨年の狂牛病騒動も国民のモラル、忍耐力が後退した証であろう。法治国家の体をなさない事態が相次いだ。
過消費文化と社会の険悪性
青少年の1割ほどが「10億ウォンが手に入るなら10年くらい監獄に入ってもいい」と答えている。2001年の世界価値観調査で、「馴染みのない人を信頼できますか」との質問に、「信頼できる」と答えたのはスウェーデン人66・3%、日本人は43・1%、米国人36・3%に対し、韓国人は27・3%だった。
05年の同じ調査で、「政党を信頼する」と答えた韓国人はわずか23・8%と世界で最も低い。ちなみに、市民団体への信頼度は高く63・1%、司法部50・2%、大企業46・0%、行政部45・9%、労組41・5%の順だった。
あまり表面には出てこない部門でも、韓国は深刻な病理を抱えている。1人当たり生態足跡(エコロジカル・フットプリント=個人の生活習慣が地球環境に加える圧力)において、OECD(経済開発協力機構)会員国のなかで最高を記録しているのがそれだ。米国を除けば、大型自動車保有比率、所得対比1人当たり電気消費量などで韓国はトップに位置する。
韓国人の飲食、交通利用、住居環境、消費活動の4種類の日常活動を充足させるために必要な資源の確保と、廃棄物の処理に要する土地面積を測定した結果、全世界の人々が韓国人と同じように生活すれば、地球が2・08個必要になるとの調査結果(「05年韓国人の生態足跡」)もある。
生命資源であるエネルギー、食糧の海外依存度が極めて高い韓国の過消費は放置できない。
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国家的未来ビジョン
緑色成長で世界主導
過去50年の成功が証明したように、韓国の個人もしくは単位ごとの能力向上は圧巻とも言えるが、優先すべきものには小異にとらわれず結束して当たる社会的統合力を失い、国家競争力をも危うくしている。自己の価値観を問答無用にぶつけ合う極限対立に対し、緩衝機能を果たす勢力や能力が弱い。それを担うべき国民大衆、なかでも力強い中間層の形成がIMF通貨危機以降の格差拡大によってままならないという事情もある。
韓国に今求められるのは▽各界指導層のノブレス・オブリージュ(富や権力などの社会的地位を保持するにふさわしい義務意識)と信頼できる政治的リーダーシップ▽これからの時代に対応する国民的モラルと社会的統合力▽自己犠牲を払っても、北韓の軍事挑発には毅然と対応し、必ず祖国を統一する決意−−これらを創出し、固めることだ。
そのために必要なのは、修辞やスローガンでも数値目標でもなく、過去100年から教訓を導き出し、今後100年の未来を語り合うなかから新たな国家像を描き、社会全ての構成員が共感をもって参与できる道程を提示することであろう。より大きな構想をもって、従来の非生産的なアツレキを抑制するのだ。その土台はある。
高まる「国格」内面の充実を
韓国は昨年11月、OECDの開発援助委員会(DAC)の24番目の加盟国となった。今年11月には、世界経済をリードする先進・新興主要20カ国(G20)首脳会議を開く。対立が目立つ先進国と新興国の共同利益を追求する連携軸の役割を果たす。「国格」とも言うべき国際的な地位は高まっている。
昨年の光復節慶祝辞で李明博大統領は、韓国はグローバル外交を基調にそう遠くない将来、世界人口の半分とFTA(自由貿易協定)を結ぶ唯一の通商国家になると展望し、「G20の議長国として堂々と緑色成長と自由貿易を主導している」と語った。国益と世界の利益を調和させる能力を開発し、21世紀の文明史を引っ張る未来ビジョンを主導的に提示する意欲も明らかにした。
地球は18世紀以来、ヨーロッパの面積に相当する森林を失い、現在も1時間ごとにサッカー場7つ分を消失させている。中国やインドの近代化初期段階で早くも、エネルギー・水・食糧の危機が顕在化した。従来の近代化方式は通用しない。
世界のなかで、国家未来ビジョンの第1位に低炭素・緑色成長を掲げた国は韓国だけだ。これは05年、ソウルで開催された第5回国連アジア太平洋環境・開発長官会議で、韓国主導によって緑色成長優先を「ソウル宣言」として採択したことに始まる。
この概念は李明博大統領、潘基文国連事務総長、胡錦濤中国主席、オバマ米大統領のスローガンとして世界に拡散してきた。韓国型緑色成長の実践的モデルが提供されれば、地球規模の共生に向けた「ソウル・コンセンサス」となろう。
「世界をリードする韓国」という、国際社会における自負心は、生態足跡指数の改善を含む国民的なモラルの向上と、社会的統合力の回復に大きな助けとなる。
(2010.1.1 民団新聞)