実業之日本社から2月に、「朝鮮王朝の歴史はなぜこんなに面白いのか」(税込800円)を発行したのに続き、今月は同社から、「韓流ドラマが10倍楽しめる朝鮮王朝の衣食住」(税込800円)を出した。
後者は、韓国時代劇に登場する衣装や料理についてカラーページで詳しく紹介している。同書の執筆に際して面白い事実が次々にわかって、私自身も大いに勉強になった。
たとえば、王の食膳に並べられた豪華料理の数々。「食べきれないのに、なぜあんなに多くの品数を出すのだろうか」と疑問に思っていたが、あれは食べるための料理ではなかったのである。
それでは何のため? 答えは「見るため」だった。
実は、王の食膳は市場に出ている食材のすべてを使うように工夫されていた。いわば、「食品の見本市」という役割があったのである。その食膳を見て、王は全国の食材の事情がどのようになっているのかを察することができた。
仮に、夏にもかかわらず旬のキュウリが欠けていれば、それはキュウリの収穫に大きな問題が起こっていることを暗示していた。王はすぐに「キュウリの生産状況を調べるように!」という命令を出したのである。
このように、王の食膳は「見るため」のものだったので、歴代王はガツガツ食べるようなことはしなかった。ドラマ「イ・サン」の主人公になった22代王・正祖にいたっては、3品程度に軽く箸をつける程度の小食だったという。
ただし、大量に残っても無駄ではなかった。なぜなら、王が残した料理は、それを調理した女官たちが食べるしきたりになっていたからだ。
このときばかりは女官たちも豪華な料理を堪能することができた。それを察して、名君のほまれが高い正祖は、あえて小食に徹したのかもしれない。
また、朝鮮王朝時代の歴代王は、大きな災難が起こったときには意図的におかずの数を減らした。あるいは、洪水や干ばつの被害が大きいときには肉を断って、庶民の暮らしを憂慮しているという姿勢を示した。このように、王はいつも豪華な料理に囲まれていたわけではないのだ。
政治的な意図をもって王が断食することもあった。それは、王の命令に従わない臣下に抗議を示す意味合いだった。
実際、朝鮮王朝時代の王というと、なんでも意のままに政治を動かしていたと思われがちだが、実は高官たちの抵抗を受けることも多かった。そんなとき、王は果敢にハンガーストライキを実行して、臣下の者たちを牽制したのである。
この「ハンスト」をひんぱんに行った王として有名なのが4代王の世宗である。朝鮮王朝最高の王と言われる世宗も、実は断食によってかなり健康を害したと言われている。しかも、彼は肉料理を好み、徹底した偏食でもよく知られた。極端な運動不足であったこともあり、彼は30代で糖尿病を患ってしまった。こと健康管理に関しては、名君とはほど遠い存在だったのだ。
康煕奉(作家)
(2013.3.27 民団新聞)