この秋、テレビ東京で「宮廷女官チャングムの誓い」が放送されている。一体、何度目の再放送になるのだろうか。繰り返し放送されることは、このドラマの人気がいかに高いかを物語っている。日本で韓国時代劇がこれほど受け入れられているのも、「宮廷女官チャングムの誓い」が大きなきっかけになったからである。まさに、韓国テレビ史に残る傑作と言える。
主人公になっているチャングムは実在した医女で、「朝鮮王朝実録」(朝鮮王朝の正式な歴史書)には「長今」として登場する。記述があるのは合計しても10カ所ほどなのだが、そのいくつかをここで紹介しよう。
最初は、1515年3月21日の記述に出てくる。朝鮮王朝実録は「医女の長今は功績があったので当然のごとく褒美を受けるべきだが、問題が起こって未だに褒美をもらえない」と書いている。ここで言う「問題」の中身については、翌日にこう記された。「医女である長今の罪は大きい。産後に王妃の衣装を替えるとき、それをしないでおくとは、どういうことなのか」
これは、かなり厳しい非難である。この記述に出てくる王妃とは、11代王・中宗の正室の章敬王后である。中宗との間で長男を出産したのだが、その直後に亡くなっている。このとき、王妃のそばで治療に当たっていたのが長今であり、朝鮮王朝実録の記述によると、彼女は王妃の衣装を替える際に不手際をおかしてしまったようである。
普通なら処罰を受けてしまうところだろうが、長今に関する記述はその後にも出てくる。経験を積むに従って腕を上げたようで、朝鮮王朝実録の1524年12月15日の記述では「医女である大長今の医術は、他の者より少し優れている」となっている。
ついに、名前の前に「大」がつけられている。これを尊称と考えていいのだろうか。
さらに、1544年10月26日の朝鮮王朝実録の記述によると、中宗が「余の病状は医女(長今)が知っている」と語ったとされる。王にここまで信頼されるのだから、長今の腕はどれほど確かだったのだろうか。
韓国時代劇の巨匠と言われるイ・ビョンフン監督は、朝鮮王朝実録を調べていて、この中宗の言葉に惹かれて長今を主人公にしたドラマの着想を得たようである。
ただし、最初は料理を作る女官に設定し、流罪先の済州島で医術を学ぶというフィクションをドラマの前半に持ってきた。まさに「創作の妙」としか言いようがない。
朝鮮王朝実録の記述だけでは、長今がどんな女性でどんな生き方をしていたのかは皆目わからない。あくまでも、彼女が医女として褒美をもらったり王族の診察をしたりする姿だけが記述に残っているのだ。
まさか彼女も500年後の韓国や日本で自分が有名人になるとは、思いもよらなかっただろう。
果たして、長今とはどういう女性だったのか。歴史の中に埋もれている一人の女性のことが、今はやたらと気にかかる。
康煕奉(作家)
(2012.12.1 民団新聞)