韓日併合100年
国交正常化45周年
今年は日本による韓国併合から100年。韓日間で歴史認識問題が再び争点になる可能性もある。また韓日国交正常化45周年という節目の年でもある。世代が若返れば記憶はいや応なしに風化していく。東アジアの中での韓日関係を考え、未来志向のよりよい関係の構築へ、双方がステレオタイプの歴史認識から脱却し、理解を深め、溝を埋めていく持続的努力が求められている。若い世代が、過去から学び、現在を見つめ、今後の両国関係の在り方を考えるための参考として、専門書ではなく、比較的に入手しやすい単行本から10冊を紹介する。(編集部)
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日本による朝鮮支配の40年
わだかまりは何か 原点から洗い直し問題整理
朝鮮近代史の泰斗である在日の歴史学者が、1982年に朝日カルチャーセンター(大阪)で6回にわたって話した内容をまとめたもの。
植民地支配40年(1906年からの間接支配を含む)の後遺症は、一朝一夕でなくなるものではない。日本と韓国(朝鮮)との間に、もはや支配と被支配の関係はない。にもかかわらず、そうした関係を反映した意識だけがかたくなに温存されている。隣国間にわだかまるもつれを、その原点から洗い直して問題を整理する。
植民地時代を生きた者の一人として、冷静にその生活実感を文献で裏付け、日本の植民地政策の実態とそれに対する民衆の抵抗を通史的に叙述。「在日朝鮮人の形成とその運動」にも一章をさいている。
「和して同ぜず」(違う者同士がその違いを知り、しかもそれを理解したうえで友好関係を深めていく)を結論としている。「史実の確認および、それを解釈する私の考え方を絶対化するつもりはない」との付記も。
姜在彦
朝日文庫 500円
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韓国と日本国
「国」よりも「人」重視 〞好き〟がゆえの厳しい批判
韓日両国の代表的なジャーナリスト(東亜日報編集局長・論説主幹・社長歴任者と朝日新聞論説主幹)の対談集。權五氏は1960年代前半の韓日国交正常化交渉を東京特派員として精力的に取材した。有数の知日知識人で、金泳三政権の時には副総理兼統一長官として南北問題を担当。対談当時は東亜日報21世紀平和財団理事長。
「『国』とは抽象であり、『国』を掲げての議論は特に日本と韓国では、これまで不毛な例が多かった」という權氏は、歴史を見るにも「国」より「人」を見ることが大切だという気持で対談に臨んだ。また、この100年間の韓日関係を視野に入れて語ったという。
權氏の韓国への厳しい批判について若宮氏は、「韓国が好きだからこそ」の厳しさであり、日本にも韓国にも公平に厳しくて温かい、と評している。
「『複眼』で攻める北朝鮮問題」「日本は『複数』、韓国は『単数』?」「サッカーW杯日韓共催の意味」「『嫌悪をもって韓国を愛す』」など6章からなる。
權五・若宮啓文
朝日新聞社 1900円
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反日ナショナリズムを超えて
「的射た批判」の勧め 扇情的な反日・反韓を排す
「この本は韓国を批判した本で、韓国人に読んでもらうために書いた」(著者)。90年代韓国での「歴史を正す」運動の一部やベストセラーになった典型的な日本たたき・批判の本を俎上にのせる。
だが、ここで取り上げているさまざまな事柄は、日本の90年代以降の動きとも無関係ではなく、むしろその反作用とも言えるものだ。著者は「韓日の問題を単に韓国だけにその原因と責任を求めるべきものとは思っていない。むしろ、この本で批判していることは自由主義史観的な人たち(民族主義、国家主義的な人たち)の主張と酷似しているとも言える」と述べ、日本のナショナリズムにも批判的である。
現在の韓日関係が、一言や二言の妄言ごときでは壊れたりしない関係に発展するためには、扇情的な反日派や反韓派などではなくて、「相手に対する的を射た批判を必要なときには仮借なしに加えることのできる親日派や親韓派」がもっとたくさん必要だと強調している。
朴裕河
河出書房新社 1800円
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写真で見る在日コリアンの100年
「歩み」立体的に構成 渡航から定着まで7百余点
在日同胞100年の歴史を写真と解説、関連する文学作品などからの引用で浮き彫りにしている。掲載写真700点余は在日韓人歴史資料館の収蔵品が中心。一目で「在日コリアンの100年」を理解できるよう立体的に構成(全20章)されているのが最大の特徴。
植民地期の日本への渡航から始まり、8・15解放後に在日同胞が日本社会で民族的誇りを持って活躍する現在までの姿を時系列で振り返る。各時代の文学作品などから抜粋した一文が当時の時代背景を如実に伝え、興味が尽きない。
第9章「解放の喜び・帰国」では、宮本百合子の著作『播州平野』の一節が引用されている。第10章からは「解放後の在日」。解放の喜びは「手作り太極旗」にもうかがい知ることができる。
なお、在日同胞の次世代に歴史を語り継ぐために民団中央教育委員会の企画による「歴史教科書 在日コリアンの歴史」が明石書店から出版されている(1300円)。
在日韓人歴史資料館編著
明石書店 2800円
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植民地朝鮮の日本人
誤った歴史を検証 「草の根の侵略」浮き彫りに
1876年、日朝修好条規(江華島条約)による強制開国で釜山に日本人が上陸して以来、1945年の日本の敗戦によって引揚げるまでの70年、最大時75万人いたといわれる朝鮮在住日本人について書かれた初めての通史。
①日本の植民地支配の特色を実証的に明らかにする②これまであまり知られていない在朝日本人の言動を描き出し、彼らが日本の朝鮮政策や日本人の朝鮮観に与えた影響を探る③彼らの振る舞いが朝鮮人の目にどのように映っていたかを考える④祖父母や父母の体験を客観化することで、過ちを2度と繰り返さないための担保を獲得することを目的としている。
「日本による朝鮮侵略は、軍人たちによってのみ行われたわけではなかった。むしろ、名もない人々の『草の根の侵略』『草の根の植民地支配』によって支えられていた」と著者は強調する。
歴史を知らないと誤った歴史を繰り返す恐れは大きい。繰り返してはならぬ歴史を検証する。
高崎宗司
岩波新書 780円
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歴史認識を乗り越える 日中韓の対話を阻むものは何か
謝罪と国際貢献提唱 アジアとの和解のために
「東アジアのよりよい未来をつくる」ための日本の立場を考える著者は、「新しい歴史教科書をつくる会」の歴史観は、「日本=文化=文明」と考えており、基本的に中華思想であり、排他的な歴史観だとみなす。
また、「最初に結論ありき」の中国・韓国式の歴史像は、いたって整合的だが、逆に言えばきわめて平板で単純であり、「閉じた」歴史観に通じ、やはり排他的だとする。
「日本は今、過去(歴史認識問題)と未来(国際貢献)の両軸をしっかりと定礎しなければならない」と強調。「ひたすら謝罪」(左派)でも、「嫌韓・反中」(右派)でもない、「アジアとの和解のために謝罪し国際貢献する日本」を提唱する。
「東アジア共同体」も「自由と民主主義」という土台を共有しない限りは、砂上の楼閣にすぎず、東アジアで最も自由な国家に数えられる日本と韓国がまず連携し、徐々に東アジア全体に広めてゆくことを提言。「在日との真の共生」の必要性にも言及している。
小倉紀蔵
講談社現代新書 720円
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大韓民国の物語
「解放前後史」見直す 機微に触れる諸問題に言及
「大韓民国は『歴史問題』という風邪をひいています」。誤った歴史意識は、社会と国家を分裂させ、隣国とは無用な歴史論争を惹き起こすだけだ、と著者(韓国近代経済史の専門家)はいう。
本書は「民族からの脱却」と「文明史の視点」から、20世紀の韓国史を全面的に解釈し直そうとするもの。叙述の対象は、大韓帝国の滅亡から植民地時代を経て、大韓民国成立初期の1950年代までの「解放前後史」。
朝鮮朝が滅んだ原因、日本による収奪、親日派、日本軍慰安婦、反民族行為特別調査委員会など民族主義の機微に触れる諸問題を忌避することなく取りあげ、さらに「朝鮮戦争」にも言及。韓国において、今まで支配的な学説だった民族主義歴史学を厳しく批判しつつ、脱民族主義の観点から、それなりの対案を示す。
大韓民国は、開港期以来、外来文明を理解し実践してきた文明開化派の後裔たちが主導して建てた近代国家だ、という歴史像を提示している。
李榮薫
文藝春秋 1857円
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「拉致」異論 日朝関係をどう考えるか
「真の和解」をさぐる 過剰な民族主義などに警鐘
北韓による日本人拉致問題を、日本と北韓(韓半島)の戦後を検証する中から論じ、拉致問題を通して露わになった戦後の欠落を問い、真の和解とは何かをさぐる。
「拉致事件を生みだした北朝鮮の支配体制」や「自らの歴史的過去に向き合うことなく、北朝鮮が犯した拉致犯罪にのみ問題を凝縮させてしまう、日本ナショナリズムの悪扇動」に加えて、「『北朝鮮』なるものが孕む諸問題に対して無自覚・無批判であった(自らを含めた)日本の左翼・進歩派」を具体的に批判している。
第1章で「帰国事業が孕む歴史的射程」「民族・植民地問題への無自覚‐日韓条約締結のころ‐」「何を取り違えていたのか‐左翼・進歩派の北朝鮮論‐」「悪扇動を行う者たちの群れ‐ナショナリストの北朝鮮論‐」について検証。
さらに2章「あふれ出る『日本人の物語』から離れて」では、過剰な民族主義と、異論を許さぬ不自由な空気に警鐘を鳴らす。
太田昌国
河出文庫 760円
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朝鮮半島をどう見るか
少し違った視点提示 ステレオタイプから離れて
本書は、これまでと少し違う視点から「朝鮮半島」を見てもらうヒントを与えることを目的としている。
そのための「特別ゼミナール」は①朝鮮半島をめぐる不思議な議論②日本と朝鮮半島の将来は明るいか③朝鮮半島は小さいか(基礎的なデータから考える)④朝鮮半島の人々は「強い民族意識」を持っているか(「常識」に挑戦する)⑤解決不可能な大論争?(植民地支配をめぐる議論を解剖する)⑥日韓関係はなぜこじれたか(歴史的因果関係を考える)⑦北朝鮮について考える(ステレオタイプから離れるための練習問題)からなる。
朝鮮半島に対する「(古い偏見による)否定的な見方」、「(善意による)肯定的な見方」のいずれも固定したイメージを再生産し、朝鮮半島の重要性や意味を考え直す際の大きな障害となっていると強調。「ステレオタイプ」から離れて、「朝鮮半島に住む人たちを、ありのままにとらえ直す」ことを呼びかけている。
木村 幹
集英社新書 680円
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東アジア共同体をどうつくるか
国家・地域 問い直す ASEANの役割に注目
「東アジア共同体」をめぐる論議が活性化している。鳩山首相は昨年10月、タイで開かれたASEAN(東南アジア諸国連合)との一連の首脳会議でも共同体構想について「開かれた地域協力の原則に立って着実に進めたい」と表明した。
すでにASEAN+3(韓日中)は、2005年のクアラルンプール首脳会議で自らを「東アジア共同体を達成するための主要手段」と位置づけている。
西欧諸国が「衰退」の危機感を共通意識として欧州共同体(EU)を形成したのに対して、東アジア諸国は「台頭するアジア」の高揚感を共通意識として「開かれた共同体」の形成をめざしている。通商金融分野を皮切りに、環境・農業・エネルギーなど、さまざまな分野における相互協力への動きがどんなシナリオを描き、地域統合の実現へと実を結ぶのか。
著者は、アジアへの旅を続けながら、国家と地域の行き方を問い直し、地域統合の推進者としてのASEANの役割に目を向ける。
進藤榮一
筑摩新書 780円
(2010.1.1 民団新聞)