龍飛御天歌-朝鮮王朝の世界<35>儒教よ!朱子学よ!
昨年4月から始まった連載も今回が最終回になった。しめくくりに、朝鮮王朝の制度上の特徴について述べておきたい。
まず強調したいのは、朝鮮王朝は王を頂点とする中央集権国家だったということ。王は、政治・経済・軍事・社会のすべてにおいて絶対的な権限を持つ統治者だった。
しかし、1人では何もできない。やはり、科挙に合格して出世を果たした優秀な官僚の支えが必要だった。そういう意味で朝鮮王朝は「王が君臨して官僚が実務を仕切っていた国家」であり、地方の豪族を完全に抑え込んだことが長い王朝の存続につながった。この間の内乱の少なさは特筆ものだった。
2つ目の特徴は、厳しい身分制度と男尊女卑である。朝鮮王朝では「人は生まれながらにして不平等」だったのだ。
最下層の身分や庶子出身者は、どんなに能力が高くても世の中で認められなかった。また、王宮の女官を除けば女性は官職に就くことがほとんど不可能だった。つまり、世に生まれてくる人の半分は、最初からエリートになれないのだ。
そのせいで、どれほど有能な人が日の目を見ないうちに人生を終えたことか。なんとも理不尽としか言いようがない。
3つ目は崇儒抑仏である。朝鮮王朝では統治理念として儒教を崇め、その反動で仏教を迫害した。
今でも韓国の街中に仏教寺院がほとんどないのは、「抑仏」によって寺が山中に追われた名残である。
代わって朝鮮王朝唯一の国教となった儒教。詳しく言うと、儒教の中でも特に朱子学が信奉された。官僚たちは、観念的すぎる朱子学を学ぶあまり、その解釈をめぐって論争を繰り返し、それが党争の激化につながってしまった。
その一方で、儒教的な価値観は庶民の生活の隅々に浸透し、「親孝行」「長幼の序」が重んじられるようになった。この価値観は現在の韓国にも濃厚に残っている。518年も続いただけに、朝鮮王朝時代の生活規範が今の韓国に影響を与えているのも当然のことなのだ。
さて、この欄は今回で終わりだが、今後は読者の方々と拙著を通してお付き合いできれば幸いである。来月の20日にはその拙著が2冊同時に発売される。1冊は「人生の大切なことは韓流ドラマが教えてくれた」(発行/実業之日本社)。韓国ドラマの面白さを私なりに語り尽くした本である。書きおわってみると、今さらながら自分が本当に韓国ドラマが好きなことがよくわかった。
もう1冊は「韓流時代劇でたどる朝鮮王朝500年」(発行/朝日新聞出版)。現在の韓国時代劇の作られ方を説明しながら、その時代劇に登場する朝鮮王朝時代の人物について論じている。
これからも「数多くの本を出したい」という意欲をもって執筆に当たりたい。
最後に、今までお読みくださった方々に心から感謝いたします。多くの読者に支えられて、1年3カ月の連載を全うすることができました。
おわり
康煕奉(作家)
(2013.6.26 民団新聞)