掲載日 : [2016-05-11] 照会数 : 6404
<民論団論>韓日修復に注力を新国会に望む…崔永哲(59)東京都・団体役員
慰安婦合意・政争の具にするな
歪んだ「反日」国益損う
4・13総選挙で与党は惨敗し、野党は躍進した。新たな勢力構成のなかで、6月から始まる第20代国会はどのような展開を見せるのか。安保・経済両面からの危機に打ち勝つ「仕事をする国会」になるよう願ってやまない。
在日同胞の立場からはもう一つ、どうしても懇願しておかねばならないことがある。それは、韓日関係の早期修復と成熟化に取り組むことだ。
昨年11月の首脳会談、12月の慰安婦問題に関する合意以降、韓日関係は修復に向かっている。だが、この合意に対する反発は韓日双方でなお根強く、韓国においてのそれはより深刻だ。成り行きによっては再びの悪化も想定される。そうなれば、国交正常化以来で最悪とまで言われた昨年までよりも、険悪の度を増す事態に陥りかねない。
慰安婦問題での合意は、3大要件とされた▽日本軍関与の明確化▽日本政府レベルの公式謝罪▽日本政府の資金による被害補償を事実上盛り込んだ。24年間の懸案を解決するために、今可能な、最善の合意として国際社会からも評価されている。しかし韓国では、「屈辱的合意」「源泉無効」との声がかまびすしい。
この合意を第20代国会は政争の具にするのだろうか。特定の勢力が来年12月の第19代大統領選挙を有利に進めるための材料にするのだろうか。残念ながら、そうなる可能性はある。この問題の解決なくして韓日関係の安定・発展は望めないだけに、在日同胞の危惧は募るばかりだ。
本国の対日世論違和感ぬぐえず
4・13総選挙の投票率は前回(2012年4月)を3・8%上回る58%だった。ところが、在外投票における日本地域の投票率は、前回の52・6%をはるかに下回る27・56%に終わった。いくらなんでも、半分近くまで落ち込むと予想した関係者はいないだろう。投票所を前回の10カ所から16カ所に増やした努力も空を切ったことになる。
投票した在日有権者の間でも、「主要政党が掲げる公約は経済・民生中心の似たものばかりで、北韓の脅威に対応する安保・統一政策や、韓日関係を修復するための外交政策など、在日同胞が関心をもつ公約がない」といった不満が強かった。また、「人物像や対立軸が明確な大統領選挙に比べて関心が低いのはやむを得ない」との嘆き節もたびたび聞かされた。
確かに、こうした不満や嘆き節も的外れではあるまい。しかし、今回の低投票率の主要因とするには抵抗がある。程度の差こそあれ、それらはみな前回の選挙時にもあった要素だからだ。
低投票率の最大要因は、国交正常化以来で最悪と言われた韓日関係が続くなかで、韓国社会における歪んだ「反日」感情の激しさ、それによって合理性を奪われるかのような対日政治力学の常態化に、かなりの在日同胞が強い違和感を覚えたことにあるのではないか。
12年8月(李明博大統領の独島上陸および天皇への謝罪要求発言)以来の、韓日関係の長期悪化がもたらした影響は大きい。私の周囲には韓国への失望をあからさまにし、民団とも縁を切るとまで宣言した同胞が何人かいた。こうした同胞は全国集計すれば相当な数になるはずだ。しかもその底辺には、投票へのモチベーションをしぼませた多くの同胞がいた。
このままでは、在日同胞の韓国離れが進みかねない。在日同胞は韓国の対日政策によって不利益をこうむることがあっても、それが母国の国益と大義をつらぬくためのものであるならば甘受するだろう。事実そうしてきた。だが、政府の対日政策を硬直させ、在日同胞の韓日善隣に向けた努力を台無しにする「反日」のための「反日」には我慢できるはずがない。
韓日離間策動がまかり通っては
それは日本の「嫌韓」勢力に韓国バッシングの材料を提供する半面で、ヘイトスピーチと闘い、植民地支配や侵略戦争を美化しようとする歴史修正主義と闘わねばならない在日同胞から、その気力を奪うものになっている。
なかでも慰安婦問題は、日帝統治の罪過を清算する次元を離れ、特定勢力による政府攻撃と韓日離間策動のテコになったといって過言ではない。そのような策動がまかり通るのは、北韓は抗日勢力が建国した《自主の国》であるのに対し、韓国は親米派に鞍替えした親日派が乗っ取った《隷属の国》とする歪んだ歴史観が歴史教科書にまで浸透するほどはびこっているからだ。
ソウル市教育庁は今年2月、管内の中・高583校に対し、「親日人名事典」を購入するよう指示した。「ドイツがナチスの過ちを教えるように、韓国も親日について徹底的に教育すべきだ」という理由らしい。
だが、同事典は左派系を対象から除外したばかりか、歴史的功罪の評価が恣意的とされ、父祖の代の、しかも一面的な評価で、今を生きる「政敵」を葬り去ろうとする政治的な意図が濃厚な代物とされる。
必要なのは「親日人名」を無責任に「公表」「告知」することではなく、「なぜ親日派が生まれたのか」「なぜ植民地に転落したのか」を歴史的に究明することだ。
日帝統治の歴史が光復70年を過ぎた今も、韓国を国ごと揺さぶっている現実に、「嫌韓」日本人は、「まるで『三国志』にある『死せる孔明、生ける仲達を走らす』の体ではないか」とあざ笑うことだろう。
(2016.5.11 民団新聞)