光復から66年、南北分断から63年。この間、南北の経済力には大きな格差ができてしまった。韓国は経済協力開発機構(OECD)のメンバーとなり、昨年にはG20首脳会議を主催した。「援助される国」から「援助する国」へと飛躍的に発展した。一方、北韓は、「軍事最優先」を継続、最も基本的な住民の「最低限の食の問題」をいまだに解決できない最貧国と化し、核開発強行と相まって国際社会のお荷物になっている。「東アジアの孤児」として、中国および韓国の経済的支援なしでは立ちゆかなくなってしまった。
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歴然 主要経済指標
GNI(国民総所得)は37対1…貿易額では202倍
尋常でない北の対中依存
北の経済規模は光州市のレベル
韓国の統計庁が発表した「2010北韓の主要経済指標」によると、09年基準で北韓の国民総所得(GNI)は224億㌦で、韓国(8372億㌦)の37・4分の1である。北韓の経済規模は、韓国の光州広域市の水準にとどまっている。1人当たりGNIは、北韓(960㌦)で韓国(1万7175㌦)の約20分の1水準でしかない。
貿易額の格差は202倍にもなる。韓国の貿易総額が6866億㌦(輸出3635億㌦、輸入3231億㌦)であるのに対して北韓は34億㌦(輸出11億㌦、輸入億24㌦)にすぎない。また北韓は交易の約52%を中国に、33%を韓国に依存している。08年の韓国人観光客射殺事件で金剛山観光事業がストップしたが、昨年の韓国哨戒艦「天安」撃沈と延坪島無差別砲撃で南北交易はさらに落ち込み、中国への依存度はさらに高まった。
発電設備容量の場合、韓国が7347万㌔㍗であるのに対して北韓は692・8万㌔㍗で韓国の10・6分の1。発電量では韓国の4336億㌔㍗に対して北韓は235億㌔㍗で18・5分の1の水準である。
原油導入量は韓国が8億3516・3万バレルで北韓の379・5万バレルの220倍にもなる。
主要工産品の生産量をみると、自動車は、中国、日本、米国、ドイツに継ぐ生産大国となった韓国が351万3000台で、北韓(4000台)の878・3倍。粗鋼は韓国が4857・2万㌧で北韓(125・5万㌧)の38・7倍。セメントは韓国が5012・6万㌧で北韓(612・6万㌧)の8・2倍。化学肥料は韓国が255・8万㌧で北韓(46・6万㌧)の5・5倍。韓国は07年に961億ウォン相当の肥料30万㌧を北韓に支援したが、現在は中断している。
社会基盤施設である社会間接資本をみると、鉄道の場合、総延長では北韓が5242㌔㍍で韓国の3378㌔㍍を上回る。しかし大部分が単線で、しかも線路と機関車・貨車の老朽化が著しい上にその絶対数も少ない。電力・石炭などエネルギー不足も加わり、現在稼働しているのは全体の8分の1にすぎないという。
一方、道路の総延長では韓国の10億4983㌔㍍に対して北韓は2億5854㌔㍍で4分の1にすぎない。高速道路は727㌔㍍で韓国(3776㌔㍍)の19%にしかならない。北韓の主要高速道路は平壌‐南浦、平壌‐開城、平壌‐元山、平壌‐妙香山、元山‐金剛山などだが、走っている車は非常に少ない。
港湾荷役能力でも大差がついた。韓国は8億53・3万㌧で北韓の3700万㌧より約22倍も大きい。船舶保有トン数も韓国の139・2万㌧に対して北韓は8・4万㌧にとどまり、その差は17倍近い。
なお、北韓は世界有数の鉱物資源国であり、石炭生産量は2550万㌧で韓国(251・9万㌧)の10倍以上。鉄鉱石も495・5万㌧で韓国(45・5万㌧)の10倍以上生産している。
豊富な鉱物資源中国企業の手に
特に北韓の埋蔵鉱物の潜在価値については6983兆5936億ウォン規模と推定され、289兆1349億ウォンとされる韓国の24倍以上だ。主要鉱物をみると金61兆3274億ウォン、鉄304兆5300億ウォン、亜鉛26兆680億ウォン、石灰石1183兆8000億ウォン。非鉄金属も豊富でマグネサイトの埋蔵量は世界一、タングステン、モリブデン、黒鉛、ホタル石なども世界10位である。
だがこうした豊富な鉱物資源は、北韓最大の鉱山であり、世界的な露天鉱山である茂山鉄鉱山をはじめ次々に中国企業の手に落ち、採掘が進められている。
中国は90年以来、北韓の主要な食糧の供給国であり、原油などエネルギーの9割近く、日用品の8割を送っている。北韓が必要とする各種物資、贅沢品も中国経由で入っており、北韓経済に対する中国の影響力はとみに増大している。このままでは中国東北部の遼寧省、吉林省、黒竜江省にリンクされ「朝鮮省」と化してしまう、との不安が高まっているという。
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共栄・統一への準備
緊要な不均衝解消…協力強化へ「核放棄」先決
「統一費用」などさまざまな試算
南北統一の円滑な推進のためには、「豊かな国」韓国と「貧しい国」北韓との経済力の大きな格差を縮めなければならない。
統一準備には韓国の持続的な経済成長に加えて、北韓自身の改革・開放を通じての経済再生が不可欠である。なんの準備もなく「突然」統一を迎えれば、南北は大きな困難に直面し、共倒れの危機に至るのではないかと憂慮する声も少なくない。
李明博大統領は、昨年の光復65周年記念辞で韓半島の非核化を前提に「平和共同体」から「経済共同体」、さらに「民族共同体」に進まなければならないと「3段階統一構想」を提示し、「統一は必ず来る。その日に備えて統一税など現実的な案も準備する時だ」と呼びかけた。
同年10月の英紙とのインタビューでは、「平和定着と共同繁栄が究極的には南北統一につながる。そのため北韓に中国式改革開放の導入を促す」と表明。北韓が中国の政治的影響圏にさらに深く編入されるか、または、内部分裂で突然崩壊するかという質問に対しては、「両方とも望ましくない。最も望ましいのは北韓が徐々に改革を進めることだ」と強調した。
李大統領はその後も、「南北は互いに尊重しながら経済協力すべきであり、究極的に北韓が経済的に自立してこそ、南北統一の基盤が築かれる。北韓が核を放棄する考えを明確に示せば、経済協力は積極的に進められる」(同年12月)と繰り返し表明している。
統一後の体制の統合や危機管理、対北韓地域への投資などに注入される統一費用については、国内外の研究機関によって5000億㌦から5兆㌦まで様々な試算が示されている。いずれの試算でも、南北の合意に基づく段階的・漸進的な統一推進に比べ、北韓の突然崩壊による急進統一は、「先進国の入口」にある韓国経済を崩壊させかねないほどに費用を膨らませる。
ちなみに、突然の「吸収統一」となったドイツの場合、有数の国際競争力を誇っていた西と、東欧諸国では最も経済的に豊かだった東の統合でありながら、統一後の経済成長率は急落した。東独の人口は西の4分の1にすぎなかったが、北韓の人口は韓国の2分の1で、1人当たりのGNIは東独が西の約50%だった半面、北韓は韓国の約5%にすぎない。
南北統一は時間の問題を残すだけであり、自由・民主主義と市場経済の体制によって成し遂げられることに疑いはない。南北および海外同胞が切望してやまない統一は、平和・民主・自主を基本原則として推進され、「南北社会の等質化」(経済発展と平和・民主・人権の価値観共有)を図るものだ。
南北統一の実現には、非核化を通じた南北間平和体制の制度化に加えて、北韓自身の改革・開放を通じた経済の再建と民主化推進が不可欠である。
世界の最貧国で、人口2400万人の北韓が120万もの正規軍を抱え、GNPの30%に迫るという過重な軍事費のもとに核兵器およびミサイル開発を最優先すればどうなるかは自明だった。
経済破綻の中で自然災害が加わり深刻な食糧不足により、90年代後半には300万にものぼる北韓同胞が飢えや免疫力の低下で死亡するという前代未聞の惨事を招いた。
北韓経済で最大割合を占める膨大な軍事費を削減し、民生用の予算に転換すると同時に、国際社会と協力して外部からの大規模かつ持続的な経済支援・協力を獲得しなければ、破綻した経済の再建は望めない。
この間、中国首脳部は訪中した金正日国防委員長に改革・開放の成果をアピールし、「改革・開放したほうがいい」と再三にわたり勧めてきた。それでも北韓は改革・開放に向かわず、核・ミサイル開発推進に象徴される「先軍政治」を継続した。
破綻経済再生へ改革開放不可欠
北韓が、スローガンとしてではなく本当に「人民生活の向上」を願い経済再建を重視し、「金日成の遺訓」とする「白米のご飯、肉の汁、絹の服、瓦葺きの家」を早期に実現する決意ならば、軍事最優先・南北対決の「先軍政治」の旗を降ろし、民生重視の「先民政治」へと果敢に政策を転換しなければならない。それは、南北協力を積極的に推進し、「中国依存」から脱却する賢明な選択でもある。
北韓の非核化および改革・開放推進は経済再生への最も核心的課題であり、最善の道筋であるのみならず、わが民族の至上課題である平和・民主統一の準備と統一費用の軽減につながる。
南北統一は、同族戦争の危機を解消、分断管理費用を一掃でき、全民族の安全と繁栄ばかりか東アジアの平和と発展を担保する。
北韓の人的資源と自然資源が韓国の資本・技術と結びつけば、国際的な研究機関が予測するように、韓国の1人当たりGNIは4万㌦を超え、21世紀中盤には「G7」に入ることも不可能ではない。
統一費用に勝る果実があることを、今一度想起し、統一への準備を国民的合意のもとに大胆かつ着実に進めることが、韓国側には強く望まれている。
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「セマウル」と「千里馬」
南 途上国のモデルに
北 未だに飢饉・餓死
北韓では、いまだに「衣食住の問題」が解決されていない。農村部の人々は絶対的貧困にあえいでいる。
1957年に開始された「人民経済発展のための第1次5カ年計画」は「衣食住の問題」の解決を第1課題にあげ、大衆動員による増産運動として「千里馬運動」が推進された。
金日成は62年の新年辞以来、「白いコメの飯を食べ、肉の汁を飲み、絹の服を着て瓦屋根の家に住む」国にすると繰り返し約束してきた。だが、実現できなかったばかりか、金正日が「代を継いだ」90年代後半には300万人もの餓死者らを出した。
国連関係機関の報告によると、その後も毎年100万㌧以上の食糧不足が続き、飢餓が恒常化。現在も外部からの食糧支援がなければ餓死者が多数出るとされている。
一方、韓国では、高度成長が開始された62年以来、都市と農村間の経済的格差が拡大した。このため70年代の朴正煕政権は、落後した農業と農村の近代化のための政策を積極的に推進した。
「勤勉・自助・協同」をスローガンとし、70年4月から始まったセマウル運動は、農村開発、地域の均衡開発、意識改革のための農村近代化運動で、「漢江の奇跡」を成し遂げるのに重要な土台となった。
セマウル運動40周年の昨年、有力紙が行った世論調査でも、「48年の韓国政府樹立以後、国家発展に最も大きな影響を及ぼした政策」としてセマウル運動が最も多くの支持を得ている。
今年2月の国会では「セマウルの日(4月22日)」が制定された。
セマウル運動は、隣国の中国はもとより、ベトナムをはじめ東南アジアやアフリカ、中南米などの開発途上国で「短期間に都市と農村の格差を縮めるのに成功した貧困打破モデル」として高い評価を受けている。現在世界13カ国で展開されており、これまで74カ国4万7000余人が研修を受けた。
オバマ米大統領は09年7月のケニア訪問時に、アフリカ諸国に自活努力を求めた演説で、「貧困から脱出しようとするならば韓国のセマウル運動をモデルにすべきだ」と強調している。
さる7月に訪韓した国際農業開発基金(IFAD)総裁は「韓国は公共開発基金の受恵国から供与国に転換した最初の国であり、飢餓と貧困を短期間に克服した経験を活用し、世界の貧困解消にも大きな役割を果たすだろう」と期待を表明している。
(2011.8.15 民団新聞)