まばゆいばかり/豪華にばらまかれ/ふるほどに/星々/あれは蠍座の赤く怒る首座アンタルス/永久にそれを追わねばならない射手座の弓/印度人という名の星はどれだろう/天の川を悠々と飛ぶ白鳥/しっぽにデネブを光らせて/頸の長い大きなスワンよ! アンドロメダはまだいましめを解かれぬままだし/冠座はかぶりてのないままに/誰かをじっと待っている/屑の星粒の星 名のない星の数々/うつくしい者たちよ/わたくしが地上の宝石を欲しがらないのは/すでにあなた達を視てしまったから
茨木のり子さんは韓国の詩に魅せられてハングルを学んだ、多分私が知る最初の女性文学者ではないかしら。 80年代の日本で韓国語を学んでいた彼女は、何で韓国語なの? と押し並べて訝られたと記しています。韓国を隣国だと思う意識が欠けていることを嘆くのです。「冬のソナタ」から韓流ブームが起こったのは03年でした。ある日、突然テレビから韓国語が流れドラマが放映されるなんて、其れ迄は決して考えられなかったのです。私が天理大学の韓国語科に通うようになったのも、実はこれが切っ掛けなんです。
彼女は韓国を訪れた折り、四歳の男の子がキムチを美味そうに食べるのを見て、この国は犬も辛いキムチを食べるのかな、それなら私だってと挑戦する件りがあって思わず笑ってしまいました。それから1986年に『ハングルへの旅』を刊行するのですね。現在は文庫本になっています。
アンタレスは南の赤い星。北東の星アンドロメダはペガススの一部。北十字の白鳥座は北から南へ飛翔するのです。デネブは白鳥のお尻に光る恒星で、尾という意味を持ちます。北天の冠座、銀河の中心は射手座。印度人の星とはインディアン人座の意味で、日本からは見えにくい星らしく探していますね。
夫夫の星には、様々な物語が散りばめられています。星空の旅の終わりは、地上の金銀宝石など無用だと詩います。亡くなる二日前の遺書には、葬儀関係は弔慰の花さえも固辞すると記しています。
生き死にへの決着はこの世に未練を一切遺さないとする矜持なのでしょうか。尹東柱の詩集や『韓国現代詩選』を日本文壇に紹介したのは、こうした骨のある生き方故なのかも知れません。
そう、彼女は韓国の (粋)の持ち主なのですね。常識なんて視野に置かない自然体が何より素敵ですから。さあ、紡がれた言の葉を夜空に映し出してみませんか。頭の芯が溶解するような、真夏の心深くへ涼風が吹き込んでくるでしょう。
天空は星祭りの陰画シューマンのピアノソナタがながれて 繊く
李正子(歌人)
(2011.7.27 民団新聞)