旅にはさまざまな楽しみがある。その一つが地方の名物駅弁。最近は地元の食材を使った「地産地消」が盛んで、駅弁にも独自の食材が使われ、見るだけで食をそそられる。思いがけず韓国と関連のある弁当に出合った時などは、たちまち食指が動いてしまう。
盛岡駅で「ビビンバ弁当」を目にした時がそうだった。それも<あつあつ 牛肉たっぷり>と大書された文句にしびれた。買わないわけにはいかない。
期待感を胸にふくらませながら新幹線に乗車しようとホームに上ると、今度はキヨスクで「盛岡冷麺缶」を見つけた。はたしてどんな代物なのか。地元は麺王国として知られるだけに、気をもませる商品だ。スープ代わりにと、即買い求めた。
新幹線が出発したあと、早速準備にかかる。ビビンバ弁当の側面についたヒモを引くと、「シュッ」と音を出し、蒸気が出た。発熱剤が発火したのだ。ふたの表面がしだいに熱くなってくる。
待つこと5分? ふたを開けると、一番上にたっぷりのった肉汁のにおいが胃を刺激する。その下には豆もやしやゼンマイ、ニンジンなどのナムルが並ぶ。発熱剤のおかげで、香ばしさをそのまま口に運べることに感謝。「石焼きビビンバ」を思わせる美味だ。
口にほおばりながら、いまひとつ、「盛岡冷麺」を思い出した。缶入り冷麺のキャップを開け、白っぽい麺をすくうと、正体はデンプンを混ぜた「コンニャク」であった。つゆの中に豚肉やウズラ卵もあり、冷麺もどき商品である。発想がおもしろい。
「口福感」に酔いしれながら、盛岡の思い出に浸った。(Q)
(2013.5.22 民団新聞)