関係史歪める「歴史教科書」
不採択へ8月が前哨戦
来年にらみ「つくる会」に断固対処
韓流や在日ウェーブが注目され、韓日関係の新しい次元への到達が予感される一方、両国関係を歪めた歴史教科書を広めようとする動きも強い。「新しい歴史教科書をつくる会(以下、つくる会)」はこの8月、中高一貫教育の都立新設校での採択に血眼になっている。青年会中央本部は、来年の全国一斉採択をにらみ、この動きに断固対抗して行く。
(在日韓国青年会中央本部 会長・壽隆)
韓日関係の歴史を歪曲する日本人ばかりではない。古代からの交流に思いをはせ、韓国からの伝来文化を復興・伝承する日本人が多いことも忘れてはならない。
狙われる都立新設校
〈慰安婦は共同便所と呼ばれた売春婦。教科書に「トイレの構造の歴史」を書く必要はない〉(従軍慰安婦が日本軍で共同便所と呼ばれていたことを受けて)。〈日本はお人よしの日韓併合までやってやって、朝鮮は日本に感謝すべきだ〉、〈ワールドカップで韓国を応援する日本の若者には、吐き気を覚えた〉。……「つくる会」を支持する学者や政治家などから、このような傍若無人な発言が繰り返されてきた。
急速に日本社会の右傾化が進んでいる。まさに4年に一度やってくる「教科書検定」のたびに、「つくる会」に象徴される右傾化を促す思想運動の流れが強まり、教室で学ぶ子どもたちにそのまま押し付けられようとしている。
01年、扶桑社から出版された「つくる会」編纂の中学校歴史教科書が検定を通過したことを受けて、本会でも民団組織をはじめ、日本の良識ある多くの市民団体とともに、「歴史の改ざんを許さない」とする声を挙げた。幅広い市民からの猛反発を受け、「つくる会」の教科書の採択率は0・03%という結果に終わったことは記憶に新しい。
しかし、彼らはかねてからリベンジを表明し、その活動を政治の世界にまで着々と浸透させ、「採択のための工作活動」がこっそりと推し進められている…。
現在、われわれが驚愕し、最も危惧していることは、日本の権力中枢が「つくる会」の全面的なバックアップを表明していることである。この流れは超党派議員で構成される「日本の前途と歴史教育を考える議員の会」の活動など、〈大東亜戦争はアジア解放の自衛戦争〉という60年前の主張をもとに、教科書検定において「近隣諸国条項(教科書記述に関して、侵略戦争によって被害を被ったアジア近隣諸国の歴史に配慮をすることをうたった条項)」の「削除」を訴える運動として、広がりを見せている。
また彼らは、今年新設される都立中高一貫校での教科書採択を前哨戦と位置づけている。差し迫った危機は、8月の台東地区で新設される白?高校での教科書採択だ。
これは、なにも台東区の特定の都立高校に限った問題などではない。残念ながら現在、全国的に展開されている「つくる会」を中心とした政治工作の氷山の一角に過ぎないのである。この採択への動きは、石原慎太郎東京都知事をはじめ、教育委員、白?高校顧問など、「つくる会支持」を表明した人物で固められているのが実態である。そして彼らは2005年の一斉採択の足がかりにすると、息巻いている。
民団と青年会を非難
先にも述べたように「つくる会」の担い手は権力中枢に及んでいる。この6月14日、東京港区の憲政記念館で行われた「つくる会」支持者のシンポジウムでは、驚くべき発言が平然と繰り広げられた。
「新しい定型によって新しい教科書が出て参ったことを、私は前進だと思います」(河村文科相)。「従軍慰安婦という歴史的事実はなかった」「文部科学省にも教科書改善への働きかけを積極的におこなっていく」(安倍晋三自民党幹事長)、「国を挙げて動いてくる、在日韓国人の団体の圧力がある」(西川京子自民党女性局長)、「各地方の教育委員会に(つくる会採択を)呼びかけるよう、地方議員に呼びかける。自民党は今回初めて、『若手議員の会』(つくる会支援議員団体)を全面バックアップしている」(自民党・古屋圭二議員)。
また、会場からの「民団青年会がこの問題に関し、圧力をかける準備をしている」との発言に対し、「つくる会」の中心メンバーである藤岡信勝氏からは、「前回の採択の反省をもとに文部科学省は警察と連携して他団体の圧力を阻止していく必要がある…対決するところは、左翼団体、民団であり、教育委員会である」と、名指しで在日本大韓民国民団への批判を露にした。「歴史の反省の上に立ち、これからのアジアに平和と人権の時代を構築したい」とする私たちの姿勢は、彼らにとって煙たい存在であることが明言されたのである。
それは「マスコミが騒ぐ前に、静穏な環境で検定し、採択させてしまう」(産経新聞・石川水穂氏。上記シンポジウムにて)との発言からもうかがえ、情報を用意周到に隠蔽することによって、2001年のような世論の猛反対から逃れ、密室のなかで知られずに強行採択する下準備を着々と進めているのだ。
不採択に向け署名活動
2003年、政治家による数々の史実を改ざんする〈暴言〉〈妄言〉に対し、本会は断固とした姿勢を持って抗議をおこなった。
私たち一人ひとりが心から願ってやまない「韓日の友好」や、「アジア近隣諸国と日本のさらなる友好関係発展」の大きな障壁となってきたのは、紛れもなく〞戦争の教訓から学ばない人々〟の、差別と偏見に満ちた「言葉の暴力」である。侵略軍の軍靴で踏みにじられた国々にあるのは、虐殺の跡地や抗日戦争記念館だけではない。そこには激動の時代を生きた人々、その悲しみを目の当たりにした子どもたち、そしてそれを二度と繰り返さないことを学ぶ孫たちの姿である。それは私たち70万在日同胞とて同じことであり、「平和と人権」の観点から、その〈負の教訓〉の反省の上に立ち、新しい時代をともに構築していこうとする思いは、私たちの心からのものである。
私たちは歴史認識問題が出てくることによって、02年サッカーW杯で両国を応援し合った若者たちの熱気を凍りつかせてはならない。『冬のソナタ』人気など韓流がもたらした新しい次元の韓日交流や『東京湾景』などに見る在日同胞と日本人の相互理解の流れを吹き飛ばすわけにはいかない。「つくる会」が好む、〈韓国VS日本〉という排他的な構図に埋め込まれることなく、日本の友人とともに手を携え、「つくる会」の〈歴史の改ざん〉に断固として対抗していこう。
そのためには〈あなたの力〉が必要だ。本会では現在、市民団体とともにこの8月の白?高校での「つくる会」教科書不採択に向けた全国署名活動を展開している。残された時間はあとわずかだ。一人でも多くの人々にこの問題を伝えること、そして考えてもらうことを目指し、来年の全国的な「教科書採択」を視野に入れた活動を展開していく計画である。
〈何か少しでも協力できる!〉と思われる方は、
在日本大韓民国青年会中央本部(Eメール
info@seinenkai.org/TEL03・3453・0881)までご連絡を頂きたい。
(2004.7.14 民団新聞)