70年代の「韓国ノレ集」
連帯感生み出す歌の力
韓国青年同盟(旧韓青)が作ったノレ集(韓国歌集)が寄贈された。宮城県本部(制作1970年)と大阪府本部(同72年)が作成したものだ。
寄贈者の宋寛氏(東京都在住)は当時、宮城の韓青で活動していた。宋さんによると、ノレ集はサマーキャンプ用に制作したのではなかったか、とのこと。ポケットにも入る文庫本ほどの大きさで、持ち運びにも便利なサイズだ。このころ、各地でこうしたノレ集が作られたようで、ガリ版刷りのざらばん紙を重ね、約30曲の祖国の歌を紹介している。
ていねいに定規で引いた手書きの楽譜に、ハングルの歌詞。カタカナのルビをふって、韓国語を知らなくても歌えるように工夫されている。
収録曲は「ウリナラコッ(花)」、「故郷の春」といった韓国の子どもなら誰でも知っていそうな童謡や「アリラン」、「トラジ」などの民謡、歌曲の「カゴパ」、「鳳仙花」など。
解放後すぐに日本各地に作られた民族学校の現場でもこうした歌が授業に取り入れられ、音楽の教科書にも紹介されている。
メロディーが簡単なため、一、二度聞けば誰にでもすぐに唄えるというのも利点だ。また「黄色いシャツ」、「木浦の涙」といった当時の流行歌も収録されている。
この時代、在日青年の進学率はまだまだ低く、企業への就職も難しかった。将来に希望がもてずに孤独感がつのり、自殺する者もいた。閉塞的な心情は民族心の目覚めとあいまって青年組織の活動へと注がれた。
若者たちは度々集って酒を飲み、議論をした。ほとんどは民族教育を受けられなかった者のため、言葉を学び、祖国へと思いをはせた。今でこそ韓国語学習のテキストはいろいろと選べるほどになったが、辞書さえなかなか手に入らない時代だ。その点でも「歌」は最も入りやすい入口だったと思われる。
サマーキャンプや結婚式など、同胞が集う場で、青年たちはよく歌を唄った。青年活動を通して知った祖国の歌は、アイデンティティーを確認するツールでもあり、苦しい状況の中で共に唄うことは「一人ではない」という強い連帯感を生んだのであろう。
先日、資料館を訪れた方がノレ集を見ながら「パンダル(半月)」を口ずさんでいた。味のある鉄筆の筆跡、謄写版のローラーで1枚1枚刷り上げられたノレ集は、今も同胞の心をつないでいるようだ。
(在日韓人歴史資料館研究員・申貴誠)
在日韓人歴史資料館
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(2006.9.6 民団新聞)