掲載日 : [2023-03-22] 照会数 : 1674
《特集》植民地責任不在の国籍法 調停委員拒否問題を考える
[ 殷勇基弁護士 ]
最高裁が日本国籍がないことを理由に外国籍者の調停委員(司法委員・参与員)の採用を拒否し続けている。日本弁護士連合会の調べによれば、これまでに採用を拒否された在日同胞の弁護士は2021年10月現在、少なくとも14人にのぼる。この問題は司法への参画にとどまらず、永住外国人などの地方参政権付与をはじめとする立法への参画、公務員への就任などの行政への参画とも根っこを同じくしている。問題の所在はどこにあるのか。自らも調停委員への道を閉ざされた経験を持つ殷勇基弁護士(在日韓国人法法曹フォーラム会長)に寄稿してもらった。
殷勇基弁護士
時代が要請する
多様な人材登用
韓国籍の弁護士が、日本国籍がないことを理由に、調停委員、司法委員、参与員への就任を拒否されている問題が2000年代の初め以降、20年近くも解決できないまま継続しています。拒否をしているのは最高裁です。
調停委員などのしごとはいずれも裁判に関係する職務ですが、常勤ではなく、また職務の内容も概ね裁判官の補助のようなしごとです。
例えば家事調停委員は離婚の調停などで夫婦双方から言い分を聞き、合意形成に努めますが、判決を下すわけではありません。多数の日本人弁護士が調停委員などに就任しています。弁護士以外の人も調停委員などに就任しています。
調停などを利用する人も人種的、民族的に多様化してきているわけですから、本来、調停委員なども多様化するべきですし、調停委員などの職務は権力的な仕事でもありません。しかし、最高裁は、調停委員などが裁判に関係する職務だということを過剰に強調して、日本国籍を要求しているわけです。
破産管財人には
就任できるのに
2000年代に入って、最高裁は調停委員などへの就任を拒否し出したのですが、その後になって調べてみると、実は70年代には既に台湾籍の弁護士が大阪の裁判所の調停委員に就任していた事実が判明しました。この事実が最初から分かっていれば最高裁も拒否をしなかったのではないかとも思えます。
ただ、最高裁はこの事実を突きつけられた以降も誤りを素直に認めず、就任拒否を継続している状態です。同じ裁判関係でも例えば破産管財人には韓国籍の弁護士も問題なく就任しています。破産管財人の職務にはかなり権力的な仕事も含まれているのに、です。
調停委員などの問題は他の問題と根っこが同じといえます。例えば公立の小中高の外国籍の教員が日本人教員との間で不合理な格差をつけられている問題があります。また、外国籍の公務員が(外国籍者でも公務員になれる市役所などは多いです)、例えば管理職になることを制限している地方公共団体が非常に多い、などの問題です。
同じように日本で生まれ育ち、日本の税金を払っているのに参政権が在日韓国人にない、という問題も同じです。
これらの同じ根っこの問題を考えるときには、日本の国籍法の「閉鎖性」も一緒に考える必要があると思います。例えば「帰化すればよいではないか」という議論をする人がいます。ただ、日本の「帰化」の手続きは現状、かなり煩雑で、費用をかけて専門家に依頼する人も多いです。
また、在日はもう5世や6世も現れているわけですが、現在の日本の国籍法では父母の片方が日本国籍を持っていないと、生まれてくる赤ちゃんは日本国籍がありません。日本の国籍法は複数国籍を厳しく制限しています(ただし、完全禁止しているわけではありません)。例えば、もともとは同じように閉鎖的な国籍法だったドイツは、より開放的に国籍法に改正し(1993、99,2014年)、父母が外国籍でもドイツで生まれた赤ちゃんや、ドイツで教育を受けた子どもはドイツ国籍を容易に取得できるようになっていて、複数国籍にも、より寛容になっています。
在日には一定の
特別措置認めよ
さらに、在日台湾人、在日韓国人という、日本の旧植民地の出身者とその子孫については植民地化にあたって日本政府が強制的に日本国籍を付与したのに、日本の敗戦後は、今度は日本国籍や、日本での参政権を強制剥奪した(1945~52年)、という歴史があります。
強制剥奪したうえで、日本国籍がないことを理由に権利を制限しているわけです。国連・自由権規約委員会は植民地時代以来の在日韓国人の地方参政権を検討するように日本政府に勧告しました(2022年11月)。この勧告も上記の歴史に留意して出されたものではないかと考えられます。
日本の国籍法を、より開放的なものに改正していくことと、外国籍公務員への厳しい制約を緩和、撤廃することとは二者択一ではなく、併用が可能です。さらに旧植民地出身者とその子孫については歴史的経緯に留意して、一定の特別措置が認められるべきでしょう。
人種差別撤廃デー
「包括的差別禁止法」求める
国連総会が1966年に制定した「国際人種差別撤廃デー」の21日を前に「もう待ったなし。私たちの包括的差別禁止法を作ろう」と題した院内集会が14日、都内で開かれた。
「包括的」とは生活のすべての面におけるあらゆる差別を禁止しているため。現実はG7各国の差別禁止法制と日本の人権状況には大きなギャップが見られる。
基調講演に立った林陽子弁護士(元国連女性差別撤廃委員会委員長)は、国連人権高等弁務官事務所が2022年12月に公表した「包括的差別禁止法実践ガイドブック」をもとに、「差別禁止法と国内人権機関・個人通報は不可分のトライアングルだ」と強調した。
個人通報とは条約上の人権を侵害された人が、国内で救済手続きを尽くしてもなお救済されない場合に、条約機関に自害を通報し、審理をしてもらう制度。日弁連個人通報制度実現委員会事務局長の中島広勝弁護士によれば、すでに約150カ国でなんらかの形で導入している。G7でなんらの個人通報制度も有しないのは日本のみ。
(2023.3.22民団新聞)