住民〞手作り〟の秘境の駅
観光列車で一躍脚光 「駅」をテーマに、韓国の鉄道の旅情を紹介する、栗原景さん(フォトライター)の連載を今号より開始する。
ある秋の朝、江陵行きの各駅停車「ムグンファ号」から、小さなホームに降り立った。隣を流れる川は、洛東江だ。山あいの、小さな小さな無人駅。周囲には数軒の民家と、唐辛子畑くらいしか見えない。
列車が去ると、まもなく駅にぱらぱらと人が集まってきた。地元のハルモニやアジョシたち。ホーム横の小屋で、農産物や山菜を並べ始めた。
ここは、韓国東部の両元(ヤンウォン)駅。洛東江に沿って通っている線路は、韓国鉄道公社(KORAIL)の嶺東線だ。1962年に全通した、慶尚北道の栄州と江原道江陵を結ぶ路線で、太白山脈南部の峡谷を走る。国道は山をひとつ隔てた隣の谷を通っているので、車窓からは人工建築物がほとんど見えない。韓国随一の絶景を誇るローカル線である。
その中でも、両元駅は特別な存在だ。国道から林道を5キロ以上分け入った、行き止まり。元は前谷里(チョンゴンニ)と呼ばれる集落で、昔から唐辛子栽培などを営む民家が数軒ある。公共交通は皆無だったが、ある時、住民の1人が足の不自由な妻のために、駅がほしいと考えた。集落の人々は、自ら待合室やホームを作り、当時の鉄道庁に列車を停めるよう請願した。その結果、1988年4月1日から「両元臨時乗降場」として朝夕2本の列車が停車することになった。
こうして、両元駅は前谷里唯一の玄関口となったが、列車は1日わずか2往復。そう簡単に訪れることはできず、ごく一部の鉄道ファンが知るだけの存在だった。
状況が変わったのは、2013年のことだ。洛東江の峡谷を楽しむトロッコ風の観光列車、「V‐Train」が運行を開始。両元駅で10分程度停車し、地元の人々が農産物やコーヒーなどを販売するようになったのだ。列車に揺られているだけで、とびきりのどかな田舎の風景に触れられるとあって、V‐Trainと両元駅は大人気となった。先ほどから集まってきたおばちゃんたちは、もうすぐ到着するV‐Trainを迎えるために、準備をしているのである。
「お兄さんどこから来たの? まあ日本から! これなんだかわかる? 大根の切り干しよ」
乾燥した野菜やキノコを並べているおばちゃんたちは気さくだ。やがて、谷の向こうからガタンゴトンと列車の音が近づき、今日最初のV‐Trainが到着した。大勢の乗客が一斉にホームに降り、写真を撮ったり、お土産を買ったりと思い思いに楽しんでいく。そして10分後、列車が去ると、両元駅には再び洛東江の川の音だけが残った。おばちゃんたちは、商品を並べたまま自宅や畑に帰っていく。1日数回、観光列車が停車する時だけ、駅に集まるのだ。
集落を散策してみよう。古い橋を渡り、小さな公園から駅周辺を見渡す。ビルや商店は一軒もなく、20戸ほどの民家が点在しているだけだ。
「お兄さん、さっき駅にいた日本の方でしょう。お茶を召し上がりませんか」
1軒の民家から聞き覚えのある声がした。さっき駅で会ったアジュンマだ。庭には、真っ赤な唐辛子や干し柿、ナツメなどがずらりと並んでいる。
「今収穫期なんで、散らかっていてごめんね。これ、甘いわよ」
お茶とともに、柿をいただいた。畑にいたご主人も帰ってきて、一緒にティータイム。以前は京畿道に暮らす大企業の会社員だったが、数年前に故郷に近いこの地に引っ越し夫婦で農業を始めたそうだ。都市集中が指摘される韓国でも、近年はIターンやUターンをする人が増えている。 The price of titanium wire is due to technological details of production without additional costs. More detailed information on the link
http://www.kmza.biz/titanovaya-provoloka.html 午後、両元駅に戻ると、ソウルから来た年配のグループに出会った。洛東江に沿って、トレッキングを楽しんできたという。
「日本からわざわざ来たんですか! これも縁です。マッコリで乾杯しましょう」
ほろ酔い気分になった頃、東大邱行き普通列車がやってきた。KTXに乗り継げば、その日のうちに釜山へもソウルへも帰れる。列車に揺られるだけで、人情あふれる田舎を訪ねられる。それが、鉄道と両元駅の魅力だ。
栗原景(フォトライター)
(2017.4.26 民団新聞)