張実圭 福岡−釜山経済協力事務所所長
未来志向で「共同体」着実に
釜山広域市と福岡市は、韓日間の地域連携モデルの段階から共同発展を目指す超広域経済圏の形成に向かって、着実に歩みを進めている。韓国と日本は一衣帯水の関係にありながら、歴史認識や領土の問題をめぐってアツレキが間欠的に発生し、不協和音を長引かせることで両国関係を未来志向の軌道に乗せるには困難があった。そんな両国にあって、「交流から協力へ、協力から共同体へ」を合言葉に、望ましい未来への牽引車となってきたのが釜山市と福岡市だ。釜山市から福岡市国際課に派遣され、行政文化の違いに戸惑いながらも、福岡‐釜山経済協力事務所の所長として現場の一線で活躍する張実圭さんに寄稿してもらった。
釜山市と福岡市は、1989年に行政協定を締結し、両市職員の相互派遣等の行政交流を継続してきた。以後、民間団体、言論機関、学会など分野別の多様な交流活動へとつなげ、このような交流をもとに2007年に姉妹都市関係へと発展させてきた。
21世紀の国境なき世界経済時代の展開と、地域別経済圏が拡大する視点から、両国のソウル、東京という首都圏集中現象は、地方都市である釜山と福岡が共に解決しなくてはならない課題であった。
地理的に近く、産業関連性も高い両地域の繁栄と共同発展を追求するために、2008年3月に釜山市が福岡市に国境を超越した超広域経済圏の形成を提案し、同年10月に共同宣言および経済協力協議会の創立総会を開催するに至った。
協力事業の主要内容としては、経済産業、文化観光、環境、教育などの多様な分野にわたる4大基本計画、9戦略、23細部推進事業、64課題を確定させた。
超広域経済圏の形成のための共同宣言の後、協力事業の推進は両市の派遣職員を通じて遂行してきたが、より効率的な推進と事業の拡大のために昨年の8月26日、両市庁舎内にTV会議システムを備えた経済協力事務所を設置するとともに、両国の言語に堪能な職員1人ずつを増員した。
両市の部署別に担当者を指定し、分野別会議を通じて事業を推進しており、その間に立って双方の経済協力事務所が懸け橋の役割をしている。
今後この事業が拡大し、より専門的な人力が必要となる時期が来れば、両市の商工会議所などからも専門人力を追加派遣する予定だ。
仕事の仕方に戸惑いも
互いの長所認めて 効率の韓国、安定の日本
この間、協力事業を推進しながら感じた点を、仕事の仕方、行政文化の差異および個人的な感想の次元で披瀝してみたいと思う。
両市間の協力事業を進めながら、困難な体験をする場合がよくある。その多くの部分が仕事の仕方から発生する場合が多いようだ。
忍耐と説得を心がけながら
双方のスタイルを私なりに要約してみると、韓国(釜山)は、仕事を迅速に処理し状況変化に巧みに対応するなど、判断が果敢で速い。効率性を重視し、最善の成果を目標として、積極的で先導的である。また、仕事の中で自身の存在を確認しようとする性向が強い。
日本(福岡)は、仕事を正確に処理するための準備が徹底しており、計画をめったに変更しない安定感がある。民主性を重視し、業務に対する責任感が強く小さな事にも慎重である。そして、職員個々人の能力を認め、意思を尊重する。
双方は、このような性向を認め合わなくてはならない。理解できない時は仕事が難しくなり、個人的にもきつくなる場合が生じる。忍耐と説得が必要であり、主・客観的な判断が求められる場合も多い。
幸い、互いの長点を認めようとする傾向が双方に現れている。
韓国の公務員は、韓国が小さな国であることを充分に認識している。ために、なるべく仕事をする方式や思考、そして生活方式までグローバルスタンダードに合わせようとする。
一生懸命に仕事を推進する過程で失敗することは充分に許され、慎重な考えより迅速な行動がより要求される社会へと変わりつつある。
世界の中の韓国を認識することが基本で、身に付いた習性でもある。本人が認知していなくても、周辺の強大国の間に位置するオランダの人々のような思考を自然と取り入れているようだ。
日本出張ではどん欲に学ぶ
韓国の中堅公務員たちの頭の中には、20年前の模範国家としての日本の姿が強く残っており、日本に来れば何でも学ぼうとする。
日本の観光地だけではなく、路地裏を歩いていても日本で学ぶことを意識する。顔を上げると看板を見、下を向くと側溝を見るという風に。日本に来ると周辺が全て学ぶものに見えるようである。そのために、日本に公務出張で来る時、出張期間を一日多く取り、学ぶことの多い日本での視察兼観光をする場合も多い。上司もそれを認めてくれる。
このような点が、外国出張に行っても必ず見るべきことだけ見て帰って来る日本の公務員たちの目には、余り良くは見えない時もあるらしい。ジャパニーズスタンダードを求める日本人には、必ず説明をして上げたいところである。
個人的な考えであるが、韓国の公務員はなるべく日本の方式に合わせようと努力していることを知ってもらいたい。
一長一短の予算システム
目に見えぬ障壁にも
日本は韓国の文化を理解し、協力的であるが、もう少し日本の方式に合わせてくれることを望んでいる。「速く、速く」の性急な文化がIT強国になるのに寄与したと認めながらも、本人たちはそのようには仕事をしたくはない様子だ。
日本の公務員の頭の中には、今だ20年前の韓国の姿がはっきりと残っているのではないか、と思われる。
前述した仕事の仕方は、行政文化の差異から来るのではないかと考えられる。韓国の行政には弾力性(融通性)がある。予算が豊かだから、と解釈しても大きく違わないだろう。
弾力性に富む韓国予算運用
韓国は国家および地方自治団体の予算を編成する時、常に予備費という項目がある。予算を企画に従属させる予算制度を選択し、予算をより効率的に活用しようとする。
このような予算制度では、予算は計画に伴うので100%確定した事業でなくても予算として編成する。部署別に編成した予算が、足りない場合もあれば、残る場合もある。
足りなければ他の部署や他の事業の予算を転用して使うこともある。
そのくらい、国家財政でも地方財政でも資金運用の弾力性(融通性)を重視する。
半面、日本のように融通性が不足すれば不正の余地が少なくなり、事業推進も安定的である。
どのような予算システムを選択しても、それなりに長短があるものだろう。両都市(国家)間のこのような文化と制度の差異が、超広域経済圏形成への障壁になり、誤解を伴う目に見えない阻害原因になることもあり得る。
活発な交流の先駆けに
職員はより使命感を 認識新たに真の同伴者へ
韓国東南圏と九州圏に拡大
現在、釜山‐福岡間には超広域経済圏の形成を通じて商工業だけではなく、言論、教育、文化などの社会各分野において活発な交流がなされており、このような現象は、両国間の経済的な格差が狭まるにつれて一層拡大するものと展望される。
この事業を担当する両市の公務員たちは、なぜこの事業を推進するのかをより明確に認識し、使命感を持つ必要がある。
両市長が合意した事業なので、義務的にしなくてはならないという感じを受けることが時折ある。このような次元では、両市長が持続的な関心を見せなければ自然と事業が粗略になる。事業の必要性とビジョンを、担当者たちにはっきりと認識させる必要がここにあると考える。
韓国は現政府の地方政策により、韓国の東南圏(釜山、蔚山、慶南)と日本の九州圏との経済圏統合に乗り出しており、韓国の東南圏広域発展委員会と日本の九州経済調査協会が共同で、事業推進のための具体的な計画を樹立中である。
両都市間の信頼をもとにこの事業を推進し、より拡大された経済圏形成のためには、釜山においてもより綿密な協議と慎重な姿勢で臨む必要があり、福岡側においても釜山の提案を幅広く受け入れ、真の同伴者として認識した姿を見せてくれる必要がある。
日本は中国を米国とともに大国と見ており、警戒感を隠さない。日本は韓国を信じるに足る友人とし、大国を警戒しなくてはならない時代が来たのではないかと思う。
その観点からも、釜山と福岡の試みは、重要な意味を帯びていると思う。
協力事業推進の合意書
「釜山・福岡超広域経済圏形成に向けた協力事業推進に関する合意書」(2009年8月28日、両市長および商工会議所会長署名)の全文は次のとおり。
大韓民国東南圏と日本国九州の主要都市である釜山広域市と福岡市は、2008年10月20日に署名した釜山・福岡超広域経済圏形成に向けた共同宣言文に基づき、両市の繁栄と、国境を越えた東北アジアをリードするグローバル超広域経済圏の形成に向けて、次のとおり合意する。
1,両市は、釜山・福岡超広域経済圏形成に向けた協力事業として、4の基本方向、9の戦略に基づく23の細部推進事業、64の課題に関して別添のとおり確定し、段階的に協力して推進していく。
1,両市は、協力事業について「釜山・福岡経済協力協議会」を中心として推進するが、その実務的な運営を担当するため関連団体・機関から構成される「協力事業推進委員会」を設置し、協力事業の進捗状況把握、評価、事業計画策定などを行う。
1,両市は、可能な限り早い時期に経済協力事務所を相互に開設し、同事務所と関係機関・企業の連携のもと、協力事業を実施するとともに、両国政府に対して、超広域経済圏の実現のために必要な制度や資金支援等について要望していく。
1,両市は、協力事業を通じ実質的な相互協力体制の地域経済共同体を構築し、漸進的には大韓民国東南圏・日本国九州まで拡大していくことで、東北アジアをリードする超広域経済圏として飛躍する。
4の基本方向、9の戦略
「4の基本方向、9の戦略」は概要次のとおり。
Ⅰ 未来志向のビジネス協力促進 ①企業間協力の環境づくり(中小企業間交流の支援、鮮魚市場など市場間交流、共同ブランドの創設)②未来型産業の育成(IT・自動車関連産業の交流促進、環境・エネルギー産業連携体制の構築)③相互投資促進(企業誘致の相互協力、韓国企業の上場に関する福岡証券取引所に対する支援)④観光コンベンションの交流協力(両都市への観光客誘致促進=釜山‐福岡アジアゲートウェイ2011の推進)
Ⅱ 人材(海峡人)の育成・活用 ①若き人材の育成(相手国文化・言語の学習機会の充実、青少年・大学生の交流促進)②即戦力、実務型人材の活用(インターンシップの受け入れ支援、専門人材マッチングへの協力)
Ⅲ 日常交流圏形成 ①交流圏形成の環境づくり(友情年の認定事業の継続開催、超広域経済圏の広報体制強化)②人とモノの移動における利便性の向上(電子マネーの利用環境づくり、両都市を結ぶ交通手段の充実、相手国の言語表記の拡大)
Ⅳ 政府への共同要望・建議(出入国及び通関手続きの利便性向上、両地域の協力事業に対する財政的支援)
(2011.2.9 民団新聞)