3月に新学期が始まると教師がまずしなければならない大切な仕事は、学生の名前を覚えることだ。随分昔の話になるが、韓国語の勉強をするために韓国の大学の語学堂に通っていた時、1時間目に自己紹介をしたばかりなのに、2時間目から先生が学生全員の名前を覚えていて顔をみながら名前を呼んでくれ、ずいぶん驚いた。
学生としては、先生に名前を覚えてもらうことは緊張もするが嬉しくもある。それで、私もできるだけ早く学生の名前を覚えるよう努力しているが、数が多くなるとなかなか覚えられない。出席簿には、顔写真もあるので、家で写真とハングルを見ながら大きな声を出しながら覚えるようにしている。
また、韓国の学生の名前は日本と違って同じ姓の人が多い。00年の調査結果によると、韓国人の姓は全部で286種あり、10大姓といわれる、金、李、朴、崔、鄭、姜、趙、尹、張、林で約85%を占めている。だから韓国では名前まで呼ばないと、何人もの金さんが一斉に私の方を見ることになってしまう。
私は20年近く韓国の大学で教鞭を執っているので、学生の名前には慣れているつもりだが、最近ちょっと長いが素敵な名前の学生に会ったので紹介する。出席簿には、「ナム・ドゥリプ」と書いてある。「ドゥリプさん、珍しい名前だわ」と思いながら、「ナム・ドゥリプさんと呼べばいいんですか」と尋ねると、「はい」と言う。
あとでその学生から本当は、「ナム・ドゥリプロウン××」という長い名前であることを明かされた。出席簿には3〜4文字しか入らないので、初めの4文字しかなかったのだ。また、最初に尋ねた時には授業が始まったばかりだったので説明するのが難しかったのだろう。
彼女の名前は、ナム(南)とナムドゥリの掛詞で、日本語でいうと、「他の人たちがうらやむ××」という意味。人が羨むほど幸せな人生を送って欲しいという願いが込められているという。その後、江原道の新聞に、「素敵な名前をもった、可愛い学生さん」としてナムさんが紹介されているのを見た。
そこには、写真といっしょに「初めはちょっと嫌だったけれど、今では父の優しい思いがよく分かってすごく気に入っています」という彼女のことばが載っていた。
最近は日本と同じように漢字表記ができない名前も増えていると思うが、学生の名前にはそれぞれ付けてくれた人の温かい思いが込められていて、どんな名前も素敵だと思う。
齊藤 明美
(2011.2.9 民団新聞)