まず違憲政党解散を
「内乱陰謀」従北一掃の契機に
一般的にというか常識的にというか、要するに、普遍的な価値観から見て醜悪であり、憎悪の的でしかないものが、崇拝や憧れの対象になる場合が少なからずある。
欧州に根を張るネオ・ナチがその典型だろう。オーストリアでは08年の総選挙で、ネオ・ナチ政党が前代未聞の32%もの票を獲得したことがあった。だが、ナチスの総本山であったドイツでは、ネオ・ナチの勢力はきわめて限られている。
自然とそうなったわけではない。東西に分断されていた時代、西ドイツが東ドイツ・ソ連からの脅威と、それに結びつく国内の共産主義勢力を封鎖することと合わせ、ナチズムを徹底清算してその再興を許さないことを国家運営の基本に据えた結果なのだ。
麻生太郎副総理による「ナチスの手口に学べ」発言で改めて関心を集めたが、ドイツには、ワイマール憲法体制下でナチスが民主的な手続きによって全権を掌握した痛恨の歴史がある。統一後も継承された西ドイツの「基本法」は、その歴史的教訓に立って、民主主義を擁護するために断固闘う姿勢を明示している。
基本法は、意見表明や出版の自由、集会・結社の自由などを「自由で民主的な基本秩序を攻撃するために濫用する者は、これらの基本権を喪失する」、「政党で、その目的または党員の行動が民主的な基本秩序を侵害もしくは除去し、または、ドイツ連邦共和国の存立を危うくすることを目指すものは、違憲である」と規定する。
ドイツ憲法裁判所はこれに基づき、ナチスの流れを汲む社会主義帝国党(52年)、同党と協力関係にあったドイツ共産党(56年)に活動禁止を命じた。ここで重要なのは、2党とも具体的な事件性を欠いたまま、「ドイツ連邦共和国の存立を危うくすることを目指す」存在と判決されたことだ。
ドイツに学べ
9月初、統合進歩党(以下、統進党)の国会議員・李石基氏が内乱陰謀容疑で逮捕された。この事件は、韓国が今こそドイツの「闘う民主主義」に学ばねばならないことを痛感させる。
北韓における独裁集団は、自国民衆の人権どころか命さえ省みず、韓国の安全を脅かしその発展を阻害する醜悪な存在であり、憎悪をもって排除すべき対象といって過言ではない。それが鉄板の常識であるはずの韓国で、国政の中枢にまで北韓独裁を崇拝する従北勢力が浸透している現実をどう見るべきか。
韓国憲法にも違憲政党を解散させる規定はある。しかし、厳格に運用して来たとは言えず、関連法の整備を怠るなど国として真剣に対応して来なかったことが今回の事件で証明された。統進党は左派陣営内部からも従北勢力の巣窟と指弾され、李石基議員は80年代から金日成主義者として活動してきた人物であることが知られていた。
北韓独裁は自らの権力基盤を弱体化させている。それが加速する可能性さえ否定できない。したがって、北韓独裁は韓国に対する統一戦線攻勢に血眼になるだろう。この面で、守勢に回るほかない韓国は、「闘う民主主義」によって武装し、まず、現行法を厳格に適用して統進党を解散させ、一方で、所属議員の処遇問題などの隘路を埋めるべく法整備を急ぐ必要がある。
今回の内乱陰謀事件では、李石基議員個人によるものか、党組織によるものかなどに加えて、北韓独裁との連携の有無が焦点になるのだろう。しかしそれは、さほど重要な問題ではない。
李石基議員らいわゆる主思派(主体思想派)は、北韓独裁との連携を重視しているとは限らないからだ。彼らはもともと自生した主思派であり、その後、北韓独裁と接線を結び、包摂された経緯がある。
消えぬ主思派
北韓が金正恩体制になって以降、従北勢力にも威厳を示せない現実があり、主思派にはその統制に従うどころか、北韓を利用しつつ、独自に動く傾向さえほの見える。北韓が崩壊しても主思派が消える保証がないほど、邪教への盲信者に近い危険な存在であることを念頭に置くべきだ。
ドイツ憲法裁は、2政党を事件性がないまま活動禁止にした。統進党には違憲性があるだけでなく、少なくとも、党を牛耳る勢力に内乱陰謀容疑が濃厚にかかっている。果断な対処をすべきであり、これをもって従北勢力一掃の烽火としなければならない。
(2013.10.9 民団新聞)