郷土料理と相性良く
ソムリエとは、酒類、飲料、食全般の専門的知識を有し、酒類及び料理選択の際に適切なアドバイスを行う専門家を指す。世界の飲食文化に造詣が深く、昨年11月に国際ソムリエ協会の会長に就任した田崎真也さんは「韓食はおもてなし文化」と絶賛する。韓国の伝統酒や料理の特質などについて語ってもらった。
麦麹で造る伝統酒
−−最近、韓国をしばしば訪れていますが
ワインと関連した韓国ドラマの監修や、日本のテレビ撮影のために出かけたりした。
魅力の安東焼酎
−−地方にも?
安東焼酎が最も伝統的な作り方をしていると聞き、その製造工程に興味があったので、安東市(慶尚北道)を訪れた。
麹の作り方が日本と全然違う。韓国の場合、ヌルック(麹)という麦麹を使う。粗挽きの麦を練って固めたものに自然に麹菌と酵母菌、乳酸菌を一括して繁殖させ、蒸し米と水を入れて仕込む。マッコリも同じで、韓国酒造りの基本型だ。安東焼酎はアルコール度数45度という強い酒にもかかわらず二日酔いしにくいといわれる。
日本酒は蒸したコメ一粒ずつに麹菌を繁殖させてから乳酸菌、そして酵母菌を繁殖させていく。製造工程が複雑だ。韓国のやり方のほうが合理的と言えるだろう。
−−安東焼酎と郷土料理との相性は
地元で有名なのが安東韓牛。牛肉を食材にした濃い味の料理と安東焼酎との相性はいい。
最近は少し軽めの焼酎がよく飲まれるようだが、やはり45度のものがうまい。伝統酒特有の風味があり、肉のフレーバー、肉の脂の香りとマッチする。
安東で面白いのが塩サバ。ある程度熟成させてから干すので、日本のものと比べて非常に旨みがある。
安東のように内陸部に見られる、味のしっかりした料理は、伝統的な風味の蒸留式焼酎と相性がいい。内陸に行くほど調理法が複雑で、熟成・発酵させたものを調味料として使うなど、味わいも豊かだ。
マッコリブーム
−−最近ブームのマッコリについて
日本で言うドブロクのこと。最近はコメのマッコリが市販されているものの、一般には麦麹で仕込むため独特な酒だ。安東焼酎は高麗時代に王に献上されたと言われているが、マッコリの始まりは紀元前といわれ、歴史がとても古い。作り方がシンプルなせいかもしれないが、韓国ではすべての酒のベースになっている。
−−大衆の酒として人気が高い
もともとアルコール度数14度のものを半分ほどに希釈する。酒というよりは健康飲料として、良質なタンパク質アミノ酸、繊維質、ビタミンなどが白濁したカスに残り、生きた乳酸菌が含まれているので体にはとても良い。
−−伝統料理との相性もいい
さわやかな酸味、やわらかな味は、野菜中心の伝統・宮廷料理に合っている。トウガラシが普及する以前から、白キムチをはじめ韓国の漬物に発酵食品が多い。特徴である酸っぱさはマッコリと共通性があり、相性がいい。トウガラシの歴史は比較的浅いが、現在のキムチとも合う。
−−マッコリは最近、女性にも人気だが
飲みやすく、美容にもいいことから、女性にも受け入れられるようになった。韓国ではワインブームとも重なり、果実類をブレンドしたマッコリが登場している。多彩なバリエーションとしていいのでは。
基本は医食同源
世界屈指の健康食
−−韓国料理との出会いは
20歳の時、フランスからの帰途、韓国で2泊したことがある。言葉もわからず焼肉店に入ってカルビを注文すると、おかずがずらりと並び、「ぼったくられるかと思った」。これが初めての出会いかな。
−−数多い著作の中で『僕が「チャングム」から教わったこと』というのがある
400年前の「チャングム」の世界には辛い食べ物がなかった。野菜や薬草がふんだんに使われ、今でいう薬膳料理だ。栄養バランスに富み、現在よりはるかに健康的な食事が想像できる。このドラマが「韓国料理=トウガラシを使った赤い料理」というイメージを払拭した意義は大きい。
−−どういう点で健康食か
医食同源の発想が基本で、食事のバランスが良い。野菜の摂取量がとても多く、青菜から根菜類までバリエーションも豊かで、ビタミン類の栄養を摂取しやすい。世界屈指の健康食ではないか。
−−スープ類も多い
「混ぜ文化」と称される韓国の食事の基本はスープだ。サムゲタンやキムチチゲといった、「湯(タン)」と「チゲ」があり、肉や野菜の栄養分をスープにして吸収しやすいようにしている。
−−近年、日本でキムチを食材に使うところが増えているが
キムチそのものが発酵食品。酸味や辛み、ニンニク風味に加えて、アミとかの旨みがあり、優れた調味料だ。肉類はもちろん、カツオやマグロとあえてもおいしい。今が旬のブリをキムチとあえてゴマ油を加えると、逸品になる。
「母親の愛情」で
−−日頃から「おもてなし」を強調しているが
韓国の食事はおもてなし文化だ。儒教の教えが根強くあるせいか、目上の人を立てるなど、上下関係がしっかりしている。乾杯(コンベ)や酒のつぎ方、飲み方など、一緒に酒を飲んでいると痛感する。多くの食堂では常にたくさんの付け出しを用意しているが、それだけで心おきなく酒が飲めるし、食も進む。欧州でもそうだが、「たくさん残してこそ十分なもてなし」を示すものだ。
医食同源の発想は、欧州の無私の献身と歓待を示すホスピスと同じで、「母親の愛」が原点。母親が子どもの顔を見ながら、今日はどういう料理にするかということを飲食店でもできれば、最高のおもてなしになる。
−−韓国では韓食の世界化を推進中だが
野菜は味のバリエーションが少ないので食べ続けるのが大変。毎日、サラダだけは食べられない。その点、韓国の野菜調理法は実にさまざまで、たくさん食べられる。それを応用した形で韓食が広がっていくとおもしろい。世界化を進めるには、キムチではなく、野菜中心の食文化であることを前面に出すのがいいと思う。
(2011.1.1 民団新聞)