ブラジル、ロシア、インド、中国を意味する「BRICs」の時代は終わったという。その命名者でモルガン・スタンレーの投資のプロであるルチル・シャルマ氏は、著書『ブレイクアウト ネーションズ―大停滞を打ち破る新興諸国』で、今後も成長を続ける新興国を予測した。とりわけ過去50年連続して5%の経済成長を成し遂げた韓国の成長ぶりに注目している。本書から韓国論を中心に紹介する。
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トレンド映す鏡
群を抜く先端・開放性
今後の成長頭は、ポーランド、インドネシア、チェコ、韓国、トルコの5カ国。頭文字をとれば、「PICKT」となる。ほかにもフィリピンやタイ、マレーシア、メキシコ、スリランカ、南アフリカ、ナイジェリア、ペルシャ湾岸諸国なども発展の可能性が高い。
50年連続して成長率5%超
過去50年連続して経済成長率が5%を上回ったのは、韓国と台湾の2カ国だけで、世界の経済レースにおける金メダリストだ。ただし、両国とも1人当たり国民所得が2万ドルを超え、経済的に成熟局面に入り、必然的に成長率は鈍化している。
エコノミストは、長らく韓国と台湾をひとつのペアとして扱ってきた。両国が、長い間同じくらいのスピードで成長してきたからだ。しかし、今や両国はこの10年間で基本的な差が目立ちはじめている。
韓国は、2012年の国内総生産(GDP)が1兆1000億ドルと台湾の2倍であり、格差を広げようとしている。06年に韓国株式の時価総額が初めて台湾を抜き、現在は1兆ドルと、台湾の7000億ドルよりもはるかに大きい。近年の両国を比較すると、日本に追いつく確率は、韓国が台湾よりはるかに高いといえよう。
世界経済の脈を測りたい時にチェックするのは、ほかでもないソウルだ。韓国は、経済データを最初に発表する国の一つで、しかもその数値は正確で信頼できる。さらに、韓国の産業は、鉄鋼や造船、自動車、石油化学に至るまで幅広いセクターで主要企業を抱え、部外者に対してもきわめて開放的だ。実際、韓国企業の外国人持ち株比率は、3分の1を超えて世界で最も高い。
ドクター・コスピの名称も
その結果、韓国総合株価指数(KOSPI=コスピ)は、世界のビジネス・トレンドをかなり正確に映し出す鏡となっている。00年にはシリコンバレーやITが世界の話題を独占し、その後は中国をはじめとする新興国市場がマスコミのトップを飾るなど、この10年で主役が変遷する中にあって、韓国はつねにその中心部にいた。
韓国では石油は出ないが、韓国の建設会社は、ここ数年の石油価格の急騰で業績を大きく伸ばした。というのも、彼らは石油関連施設の建設で世界のトップにいるからだ。韓国の建設会社と土木会社は、中東、中央アジア、東南アジアに業容を拡大している。この多角化こそ、コスピが世界経済の生命兆候(バイタルサイン)を驚くほど正確に反映している理由である。
その先見性のゆえに、一部の金融サークルの間では、ソウルの株式指数に「ドクター・コスピ」というあだ名がついているのも、それほど不思議ではない。
今や韓国は、めまぐるしく変化する産業界の最先端にとどまり続け、別格の扱いとなっている。
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例外的な進化
並はずれた製造業立国
韓国は、日本の影のような存在から表舞台に現れ、製造業大国の限界を定義し直そうとしている。軽工業から重工業へ、繊維から鉄鋼へといった初期の発展段階をとてつもないスピードと技量で切り抜けてきた。計画経済に驚くほどの成果を上げ、鉄鋼や石油化学、造船の分野で世界的リーダーとなる。00年代初め、韓国が世界の製造業輸出に占めるシェアは相当な水準に達し、それ以上の成長余地はあまりないように見えた。
サービス産業生産性伸びず
国内の消費市場を強化して輸出にとって代わらせ、その後に金融、観光、小売といったサービス業を育てることが必要だった。ところが、政府からのおせっかいな規制や指針のせいで、サービス産業の生産性が伸びない。クレジットカードを普及させ消費者革命を起こそうとしたが、起きたのは家計の債務危機だった。家計の債務残高は、経済規模の146%と、世界で最高水準にある。
また、韓国では、サービスに価値を置く文化が根づいていないように見える。韓国人は、世界中の他の国の人々に劣らず丁寧で親切だが、どうも無形製品に対する偏見があるようだ。
しかし、韓国にはもう一つの、まったく違った側面が顔をのぞかせている。勝算が次第に厳しくなってきているにもかかわらず、製造業を通じた繁栄への道を歩み続けている。
「既存のルールや慣習にとらわれるな」これも、ブレイクアウト・ネーション発掘のための重要なポイントだ。かつて、製造業がGDPの25〜30%を占めていたころには、製造業の成長は自ずと限界に達し、経済は次第にサービス産業へとシフトしていったものである。
この移行は成長ゲームの比較的初期段階、つまり、1人当たり国民所得が1万ドル程度で始まるのが一般的だ。韓国は、所得が1万ドルを超えてからすでに15年がたっており、現在の所得水準はその2倍にまで達し、しかも製造業セクターは、なお着実に拡大を続けている。おそらく、この国は正常な進化の道筋から大きく外れた、例外的な道を切り開いているのだ。
製造業が国の経済の31%を占めており、製造業立国としての、韓国の並外れた能力を示す。自動車や鉄鋼だけでなく、現在は工作機械、ロボット、航空宇宙、生命工学、充電池、材料科学といった、新しい成長産業でも世界的なプレーヤーにのし上がっている。
自給自足をしたいという韓国の欲望は、各社の企業文化にも現われている。韓国人は、外国で企業を買うのではなく、もっぱら自前で設立してしまう。韓国企業による10年の自社プラントや海外の企業への直接投資額は1400億ドルで、05年の4倍になった。製造業大国として成長を続ける韓国の力の源泉となってきたのは、こうした形での拡大であり、最近では、効率性も大幅に高めている。世界で最もロボット人口密度の高い国の一つでもある。
世界ブランド構築にも成功
多くのアナリストの予想とは裏腹に、三星や現代、LGが世界的ブランドを構築することに成功した。03年、韓国輸出の3分の2は先進国向けだったが、11年になると、3分の2が発展途上国向けに変わった。韓国はとてつもない速さでグローバル化していった。輸出がGDPに占める割合は53%までになった。
三星と現代が圧倒的な勝利を収めているのとは対照的に、韓国の銀行と電気通信会社は、いまだに国内でさえ成功できていない。韓国で最大規模を誇る銀行の会長は、「韓国の銀行はスピードが遅すぎて、外国の競合他行の革新的な商品や効率的なサービスになかなか追いつけないのだ」と、率直に語ってくれた。
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創造への破壊
劇的変化遂げモデルに
国を守るため国民こぞって
危機に直面すると、文化的な背景が大きな差となって表れる。98年のアジア金融危機の際、韓国はIMFから580億ドルの金融支援を受けるまでに追い込まれた。返済には何年もかかるだろうと思われた。
ところが、国内では「経済を早く立て直そう」とのキャンペーンに火がついた。「国を守る」という大義のために、寄付をしようと宝石店に人々が長い列を作った。多くの会社が倒産し、地獄の日々を送った後、01年に韓国はIMFへの負債を返済した。
この創造的破壊を受け入れる度量こそ、韓国が台湾や日本と異なる点である。韓国の大企業は、専門性の高い経営者を雇い入れて、日々の業務を監督させた。しかも、創業一族がなお経営に関わっていたため、大胆な長期戦略を実行に移すことができた。
国がイノベーションと変革にどの程度真剣に取り組んでいるかを示す重要な指標に、研究開発費があげられる。韓国は今やこの分野でも日本をしのいでいる。中核的役割は民間の大手企業が担っている。各社とも自前のシンクタンクを持ち、躍進する原動力となっている。
一族支配の財閥が、現在の韓国トップ30企業を支配している。しかし、98年のアジア金融危機を境にして、財閥による「縁故資本主義」は劇的な変革を遂げ、今や韓国経済の推進力となっている。
同族支配でありながら株式を上場し、経営は専門家に任せるのが、最も強力なビジネスモデルだ、という議論に説得力を与える。つまり、一族が支配しているため、企業は一貫した長期的方針を維持でき、同時に株式を上場しているため、帳簿類はクリーンな状態に維持する必要がある。さらには専門家を使って日々の経営にあたらせる。
韓国だけが唯一の成功例というわけではない。マッキンゼーの研究によると、1997年から2009年まで、同族企業の株価は、世界の株式市場の株価を毎年平均で3%上回っていた。
韓国では「現状」の定義が変わりやすい。危機に襲われると、日本は既存の経済システムを防衛しようと必死になる。一方、韓国は既存の仕組みをあっさり捨てて、再構築を図る。90年代の危機ほど、このコントラストが明白になった例はないだろう。日本は破綻企業を生き延びさせようとしたが、韓国は大掃除を一気に進めた。こうして韓国は変化のモデルとなった。
南北統一して爆発的成長も
近年、韓国の指導者たちは、北韓がいずれ崩壊することを想定している。政府債務をGDPの34%に抑えている大きな理由はまさにこれで、北韓を再建する莫大なコストを吸収するために、準備を整えているのだ。
しかし、将来は、この分断が韓国にとっては有利に働く可能性が高い。今後、統一した韓国が、一気に爆発的な成長を遂げることも、考えられないことではない。
南北が統一すると、まったくエネルギー資源を持たない経済に、北の莫大な石炭の備蓄量が提供されるだけでなく、すでに十分な力を蓄えている韓国の労働市場に、新たに2400万人もの規律の取れた労働力が加わることとなるだろう。
こうした発想に疑いを持つ人々は、世界中でめくるめく変化したトレンドに、この国がいかに素早く適応したかを考えるべきだ。
だからこそ、今や韓国が唯一の金メダリストとして君臨しているのである。
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韓銀などGDP成長率予測
下半期から回復傾向…リスクは中国経済の鈍化
韓国内の銀行や民間企業などが7月に発表した「今年の国内総生産(GDP)成長率予測」によると、韓国銀行が2・6%から2・8%に上方修正したのをはじめ、ほとんどが似た水準の伸び率を予想した。韓銀は来年の成長率見通しも3・8%から4・0%に引き上げた。
下半期には景気浮揚策が徐々に効果をあらわすとともに、世界経済が緩やかな回復傾向を示すことから、下半期の成長率が3%台に達するとの見通しだ。したがって、年末から来年にかけて景気回復が本格化すると予想している。ただし、経済専門家たちは、韓国経済の最大のリスク要因として中国経済の成長鈍化を指摘するとともに、下半期の対応策として不動産景気など内需活性化を重視すべきだとしている。
一方、世界銀行は世界の経済成長率を年初の2・4%から2・2%に引き下げ、国際通貨基金(IMF)も、近いうちに下方修正することを言明した。主要先進国の景気回復遅れや中国の成長率鈍化、米国の量的緩和縮小などを懸念材料として挙げている。
(2013.8.15 民団新聞)