掲載日 : [2021-03-02] 照会数 : 8158
JDもーちぃの新大久保ナビ④「かわいくなりたい」 明るい未来のカギに
[ 韓国風の制服をレンタルして韓国女子になりきる子たち ]
「なんだか人通りが戻ってきたな」。大久保通りを運転する車の中で父が言った。ヘイトスピーチの影響で静かになってしまった新大久保にまた人が集まり始めているのを肌で感じたのは2015~16年頃だ。しかも、以前の韓流ブームとは違い、ほとんどが学生を中心とした若い女性。
K‐POPのアイドルショップやコスメショップ、カフェ、どこを見ても若い女性が押し寄せていて、レジに長蛇の列ができているお店もあった。そこにいる女性たちは、韓国の若い女性やアイドルのようなメイクやファッションをしている子が多いように感じた。
当時流行しはじめたSNS、インスタグラムでは「#韓国人になりたい」というハッシュタグが人気で、数万件を超える投稿がされていた。韓国を旅行先や、国ではなく「可愛くて、取り入れたいもの」として捉える若者が急増していたのだ。ハッシュタグの投稿内容を見ると、韓国のコスメを購入した写真や韓国人のメイクを取り入れた自撮り、韓国人っぽく見えるファッションのポイントがまとめられた画像が並んでいる。
彼女たちの言う「韓国人になりたい」とは、国籍のことでも、政治的なことでもない。「かわいくなりたい」というこのシンプルな意味だけだ。言ってしまえば、彼女たちにとっては、国同士の争いや、両国の今後のこと、大人の考える難しいことなどはほとんど頭になかったのかもしれない。しかし、なんのフィルターもかかっていない目と心で見たものを「すき」と表現できる彼女たちこそが明るい未来のカギを握っているのではないか、という気がする。
そんな「韓国っぽ女子」たちは、新大久保でみんな楽しそうに写真を撮ったりお買い物をしている。韓国っぽ女子は、SNSに留まらず、雑誌やTVで特集を組まれるようになった。若年層向けの女性誌の多くが韓国ビューティーやファッション、グルメの特集を毎号のように組んでいた。
しかし昨今は、日本人の女性が韓国のコスメを取り入れることはスタンダードとなり、韓国に特別関心のない人でも韓国コスメを「かわいいから」「質がいいから」と使っているため、「韓国○○」と特集を組み、特別に扱うものですらなくなっている。
もともと韓国が好きだった、または情報感度の高い若年層の女性の中で「かわいいコンテンツ」として韓国は新たな広がりを見せ、現在は若者のライフスタイルに完全に溶け込んでいる。新大久保にくる若者も、2015年頃は、冒頭で触れた韓国っぽいメイクや服装をした「韓国が好きそうな女の子」が多かったが、今は、「好きそうな子」も、「そうではない子」も混在している。新大久保は〝韓国好きが来る街〟から姿を変えたのだ。
ここ数年、日韓関係でネガティブな報道がされた時も、この街の賑わいには特に変化はなかった。みんな難しいことは考えず「かわいい」や「美味しい」「楽しい」を求めて新大久保に訪れている。
未来を担う若者である私たちが、政治や国に無頓着なことは良いこととは言えないだろう。しかし、こうしてフィルターのかかっていない目と心でひとつの国を見て、どんな形であっても楽しんだという経験は、未来を創るカギになっていくと信じている。
(2021.03.03 民団新聞)