日本語版は5年前既に 先月16日、世界的に知られている英国の文学賞、国際ブッカー賞に韓国人女性作家、韓江さんの短編集『菜食主義者』(英語翻訳=デボラ・スミス)が選ばれて以降、韓国では一部の書店で品切れになったり、オンライン書店での販売も急増している。また英国、米国でも増刷が決まった。日本では2011年に、韓国関連書籍の出版社「クオン」(金承福代表)が「新しい韓国文学シリーズ」の第一弾として日本語版を出版。現在、在庫切れのため増版に入った。多くの人たちを惹きつける『菜食主義者』の魅力について、東京・神保町で韓国専門ブックカフェ「チェッコリ」も運営する金さんに聞いた。(インタビュー構成)
在庫切れ増版急ぎ 月内には再発売 今回、『菜食主義者』が国際ブッカー賞を獲得したことで、皆さんもいいものはいいと思っているんだなと実感しました。小説として優れているし、扱っている内容がものすごく強い。暴力はどこの国にもありますが、それに抵抗する様子が分かりやすく書かれていて、誰でも共感できるような物語なんです。
『菜食主義者』は05年に李箱文学賞を受賞した『蒙古斑』を含む三つの連作小説の一つで最初に読んだ時、私の会社で出版する1作目として、とてもいいと思いました。
この本を出版した1カ月後に各新聞で書評を出してくれました。それぐらい皆が衝撃を受けたということです。いいものに対する皆さんの素直な感想が出てきたと思いますね。小説が好きな人にはたまらない作品だと思います。
海外で受け入れられたのは普遍的な内容だけではなくて、彼女の文章力、文体も素敵だからです。日本語に翻訳した、きむ・ふなさんの訳がものすごくうまい。
今回、英語に翻訳したデボラ・スミスさんはある程度、意訳もしたということで韓国では今、翻訳のことでいろいろな議論がされています。
韓国人作家の作品は、英語圏であまり翻訳されていません。イギリスもアメリカも海外の文学の翻訳率というのは全体の3%もいかないらしいんです。その3%のなかで日本の作品がダントツ多い。韓国は10冊にもならないと思うけど、今回の『菜食主義者』はそのなかの1冊で賞を取った。これから、韓国作品の翻訳がどんどん出てきたら、多分、すごいと思いますよ。
私たちが『菜食主義者』を日本で出版した時に、皆さんの関心が高まったのは韓江さんが優れていただけじゃなくて、今まで韓国の文学作品を見ていなかったからです。
私は韓国の文学作品はすごいと言いたいのではなくて、多様なものがあるということです。韓国だけではなく、台湾やいろいろな言語圏から紹介されたら違う世界を見ることができます。そういう意味で『菜食主義者』は道案内役をしたんじゃないかと思います。
今、在庫がないので増刷に入っていて、今月中に上がる予定です。初刷り(11年4月)から4回目になります。日本人の読者は、ブッカー賞をとったことで注目してくれていて本当にありがたいと思っています。
韓江さんの次作(『少年が来る』(原題)の日本語版を今秋出版予定)への問い合わせもあるし、原書を取り寄せたいという方もいます。彼女の原書は『菜食主義者』以外に8冊くらいあるけれど、それらの問い合わせも来ます。関心は高まっている気がします。
■□
『菜食主義者』読書会
日本人参加者の感想 5月17日、チェッコリで開かれた韓江さんの『菜食主義者』の読書会での日本人読者の感想を一部紹介する。
◇最初は内容に戸惑いましたが、読みすすむうちに共感出来る部分もありました。読んでよかったです。
◇最初から最後まで一気に読んでしまった。生きるために食べるということについて考えさせられた。生きるために自分が何を、誰をどれくらい犠牲にしていくのかなと読み終わってしばらくぼんやりとしてしまった。 You want to play with Lady Luck? Feeling daring?
Come here ◇引き込まれるように読んだ僕は、読み終えた直後にはやくも置いてきぼりにあった気分になった。同時にまた少し救われた気もした。いずれにせよ大した才能だと思った。そして「違う方向」に進んでいる彼女の作品をさらに読んでみたくなった。
(2016.6.8 民団新聞)