掲載日 : [2016-05-25] 照会数 : 5558
着実に実効化を…ヘイトS解消法
[ 法案の成立を見越し、今後の取り組みを語るNGO ]
国、自治体動かす
NGO会見
自民、公明提出のヘイトスピーチ(差別扇動表現)の解消をめざす「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法」が24日、附帯決議を加え、衆議院本会議で可決、成立した。法案が参議院法務委員会で可決された12日、衆議院での成立を見越してNGO「外国人人権法連絡会」が東京都内で会見し、国が差別の存在を認め、対策の必要性を明記したことで、国や公共団体を動かす力になりうると強調した。ヘイトスピーチ根絶への闘いはさらに勢いづく展望だ。
外国人人権法連絡会は声明を発表。「内容に不備はあっても、国がヘイトスピーチを許さないという立場を取ったことには意義がある」と歓迎した。
同席した社会福祉法人青丘社ふれあい館職員の崔江以子さんは、「法律ができることがゴールではない。私たちの最終目標はヘイトスピーチの根絶だ。根絶のためのツールと考えている」と表情を引き締めた。
ただし、法律を遂行していくうえで必要な具体的な施策と審議機関がなく、財政措置もとられていない。衆議院で成立したからといって国が率先してなにかしてくれることは期待できないという。
同連絡会運営委員の師岡康子弁護士は、「これで直接、ヘイトスピーチを止められるかというと疑問。むしろこの法律を使って民族差別と闘う側が国、地方公共団体を突き動かしていくためのものだ」と指摘した。
具体的には条文の第5条(相談体制の整備)だ。師岡弁護士は「法務省の人権相談に当事者、または専門家を入れろと要求する根拠になる」という。また、「地方公共団体には、公共施設の貸し出しにあたって関連の条例を改正するとか、人種差別撤廃のための基本条例の制定を働きかけていくことも可能だろう」と見解を述べた。
一方、有田芳生参議院議員(民進党)も自らのツイッターで「附帯決議の精神で(差別扇動団体がデモの集会場とする)公園の貸し出しは拒否できます」と書き込んだ。これは6月5日に川崎市で予定されているヘイトデモを意識したもの。
法案が成立したことを受け、同連絡会はこれまでの審議で出た発言も含めて条文だけでは伝わりにくい法案の解釈をまとめた手引きをつくり、自治体に対応を働きかけていく考えだ。
連絡会事務局の佐藤信行さんはさらなる改正を視野に入れながら、「この法律を使って国ばかりか各地の自治体を動かしていく具体的なアクションを起こしていこう」と締めくくった。
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インターネット規制も
衆議院の附帯決議
本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律案に対する附帯決議
国及び地方公共団体は、本法の施行に当たり、次の事項について特段の配慮をすべきである。
一 本法の趣旨、日本国憲法及びあらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約の精神に照らし、第二条が規定する「本邦外出身者に対する不当な差別的言動」以外のものであれば、いかなる差別的言動であっても許されるとの理解は誤りであるとの基本的認識の下、適切に対処すること。
二 本邦外出身者に対する不当な差別的言動が地域社会に深刻な亀裂を生じさせている地方公共団体においては、その内容や頻度の地域差に適切に応じ、国とともに、その解消に向けた取組に関する施策を着実に実施すること。
三 インターネットを通じて行われる本邦外出身者等に対する不当な差別的言動を助長し、又は誘発する行為の解消に向けた取組に関する施策を実施すること。
四 本邦外出身者に対する不当な差別的言動のほか、不当な差別的取扱いの実態の把握に努め、それらの解消に必要な施策を講ずるよう検討を行うこと。
(2016.5.25 民団新聞)