韓半島における平和の定着と統一は、大韓民国憲法で明示している政府と大統領の「義務」である。対北政策とは、政府と大統領がその義務を果たすため、国際情勢や北韓の対南政策、国民世論などを総合的に考慮して作る設計図のようなものである。要するに、平和・統一を目指す対北政策の立案は、政府と大統領にとって必須の課題であり、2025年6月に発足した新政権(以下、国民主権政府)もまた、同課題に着実に取り組んでいる。
国民主権政府は、発足直後から南北間の軍事的緊張緩和と信頼回復を目標に、まず、北韓に対するビラ散布の禁止や拡声器放送の中止などの措置に踏み切った。そして、李在明大統領は、第80周年光復節を記念する祝辞において「現在の北側の体制を尊重し、いかなる形の吸収統一も追及せず、一切の敵対行為をする意思がないことを明確にする」と述べた。「体制の尊重」、「吸収統一の排除」、「敵対行為の禁止」という対北政策の原則を示したものである。
李大統領は9月23日の第80回国連総会の一般討論演説においても「南北の崩れた信頼を回復し、相互尊重の姿勢へ転換すること」を対北政策の「第一歩」と位置づけ、光復節の祝辞で示した対北政策の原則を改めて確認した。
さらに李大統領は、12月2日に行われた民主平和統一諮問会議第22期発足会議において対北政策の目標を公に発表した。まず、「戦争の心配のない韓半島」の実現である。それに向け、軍事境界線一帯における緊張を緩和し、偶発的な衝突の可能性をなくすために必要な措置を積極的かつ先制的に行い、韓半島の戦争状態の終息、核のない韓半島の追求、確固たる平和定着に向けた努力を持続することが李大統領の構想である。
次は、「平和共存」の新時代への前進である。李大統領は「7年にわたり中断されている南北対話を再開することこそ、平和共存の新しい南北関係の出発点」と述べ、南北間の連絡チャンネルの復旧を北韓側に提案した。また、南北が「平和に共存する土台」の上で、「共同成長」をしていくための協力も進める。気候と環境、災害と安全、保健医療など、「世界の関心事であり、南北双方の需要が高い」交流・協力事業から着実に推進していくとしている。要するに、国民主権政府の掲げる対北政策の目標は、「戦争を心配せず、平和に共存し、共同成長していく韓半島」を実現することと言えよう。
このように方向が定まりつつある国民主権政府の対北政策だが、とりわけ在外同胞への説明に力を入れている。それは在外同胞こそが、韓半島の平和と統一の堂々たる「主役」だからである。講演の場で「韓半島の平和・統一は誰の課題だと思いますか」と質問すると、聴衆の多くは「韓半島に住んでいる南北の人々ではありませんか」と答える。そう言われる度に筆者は、以下の理由から、平和・統一は韓半島に住む南北の人々に限らず、在外同胞も「一緒に」解いていく課題であると説明している。
第一、平和・統一は、在外同胞の歴史的トラウマを治癒する上で役に立つからである。日帝による強制占領がなければ分断もなく(米国とソ連が日本軍の武装解除を理由として38度線を設定したからである)、韓民族が離散を強いられることもなかったはずだ。韓半島に住んでいた韓民族の多くがこの時期、やむを得ず故郷と家族を離れ、なじみのない地域に移住し、差別や排除、嫌悪といった辛い思いをさせられた。今日、在外同胞の多くは、痛ましい過去の記憶と生きつつ、同じ苦しみが二度と繰り返されないことを願っている。従って、日帝による強制占領に起因した分断を乗り越え、平和・統一の道へ進むこと、すなわち、20世紀初めの「民族苦難の歴史」を潔く清算することは、在外同胞の切実な願いであり、目標に他ならない。
第二、平和・統一は在外同胞社会の団結・発展に役立つからである。分断から現在まで続いてきた南北対立は、韓半島に住む人々のみならず、在外同胞にも深い傷を負わせてきた。韓半島の分断線は在外同胞社会にも分断の線を引き、南北対立が激化する度に、その線はより鮮明になり、太くなる一方だった。その分断線が、差別や排除、嫌悪など居住国で強いられる苦痛を克服したい在外同胞社会の努力の妨げになってきたのは言うまでもない。だからこそ、平和・統一は、各国の在外同胞社会が南北対立による分裂と葛藤を乗り越え、団結を図って発展していく土台になり得る。 在外同胞は平和・統一の堂々たる主役として、実に様々な役割を果たすことができる。例えば、南北対決が先鋭化したとき、在外同胞が率先して在外同胞社会に引かれた分断線を消していくことができれば、韓半島に住む南北の人々に良い教訓を与えるはずだ。
また、南北間の交流・協力を促し、必要であれば南北間に交流・協力の「橋」を架ける「平和・統一の橋渡し」の役割も考えられる。さらに、居住国において韓半島の平和・統一の必要性を訴え、それに共感する世論を形成する「民間の統一外交官」としての役割も期待できる。
国民主権政府が掲げる対北政策への理解、そして在外同胞が平和・統一の立派な主役であるという認識を深め、このすべての役割を果たしていってもらいたい。