掲載日 : [2003-01-01] 照会数 : 4941
わが家の民族教育1 魏嘉展さん一家(三重四日市)(03.01.01)
[ 民団三重の「オリニ土曜学校」に6人全員で通う魏嘉展さん一家(中央) ]
本名とルーツを大切に
「わが子には、日本社会にあっても、本名(民族名)のまま、韓国人であることを隠すことなく、ルーツを大切にして、すくすくとたくましく育ってほしい」。「自分は何者なのか」と自問し苦悩した自らの子ども時代を振り返りながら、そう願っている在日同胞3世は、「わが家の民族教育」にどう取り組んでいるのだろうか。
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「土曜学校」に全員で通う
魏嘉展さん一家(三重四日市)
魏嘉展さん(42)一家は、最近では珍しく多家族だ。魏さんと同じく3世の妻・辛美和さん(35)をはじめ、長女・綾那ちゃん(小3)、次女・佳那ちゃん(小1)、彰君くん(5)、彰寿くん(2)の6人だ。
夫婦とも三重県の四日市生まれ。長男もやんちゃの真っ盛り。家の中はにぎやかだ。「アンニョンハシムニカ」。家庭ではことあるごとにウリマルが飛び交う。食事の前と後は、チャルモッケスムニダ、チャルモゴッスムニダ。兄弟同士で呼ぶときもヒョン、ヌナと徹底している。
魏さんはアボジを早くして亡くした。しかし、幼心にアボジからあいさつを徹底させられたことと少しだがウリマルを教えられたことを覚えている。
きちんと挨拶ができることから始めようと、自分の子どもたちにも挨拶を徹底させた。簡単な単語はウリマルを使うことも平行した。民族学校出身の美和さんがもっぱら教師役を担当する。
ウリマルにこだわるのは、嘉展さんの思いからだ。たった一人で全羅南道の宝城郡にあるアボジの墓参りに行った時のこと。ソウルからバスで向かう道中、ウリマルがわからずに大変な思いをした。そのときの思いから、子どもたちには少しでもウリマルを理解してほしいという願いが込められている。
子どもたちは、2歳の次男以外は小学校、保育園に通うが、全員本名だ。本名で通わすことに迷いはなかったが、どのように読ませるかで悩んだという。結局、日本語読みの「ギ」より、ウリマルの発音の「ウィ」に決まった。長男の彰君(チャングン)は同じ発音の「将軍」から拝借した。
カバンには太極旗やコムシンのキーホルダーもぶら下がり、韓国色いっぱいで保育園や学校に通っている。そんな長女が1年生の時、通称名で通う3年生の女の子が「実は私も韓国人なのよ」とそっと打ち明けにきたという。
民族的な素養も身につけてほしいと、綾那ちゃんは5歳の時から民族舞踊を学んでいる。1年を通して1作品を仕上げ、年に1度の発表会もある。これまで3作品を学んだことになる。
昨年6月からは、民団三重のオリニ土曜学校に一家で通っている。土曜学校ではウリマルと民俗楽器のチャンゴを教えてもらえる。下の3人以外は現在、親子でチャンゴにも挑戦している。
嘉展さんは、子どもが大きくなった時の状況によって国籍を変える可能性は否定しないが、「民族的な意識をしっかりと持って生きてほしい」という願いを持っている。深く考えず、安易な道を選ぶことは悲しいことだと考えている。ウリマルや民族的な素養を教えるのも、より多くの選択肢を残してあげたいからだ。
オモニの美和さんの願いは「同胞と結婚してほしい」だ。同じ思いを共有できることこそ、すばらしい、と自らの結婚経験を通して切実に語る。
民族学校出身の美和さんは、日本語の発音ではできないウリマルの発音をきちんと身につけてほしいと、そして嘉展さんは母国の中で民族を学んでほしいと、ともに母国修学の道を歩ませたいと願っている。
1世や2世ですら、ともすれば日本社会の中に埋没し、自らを見失いがちになる中で、3世の両親による4世への民族教育は、思い入れも深い。
(2003.01.01 民団新聞)