掲載日 : [2003-01-01] 照会数 : 6803
わが家の民族教育3 高用哲さん一家(大阪生野)(03.01.01)
[ 室内には韓半島全図と故郷・済州道の地図に太極旗も ]
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簡単な挨拶、ウリマルで
高用哲さん一家(大阪生野)
多くの在日が住む大阪の生野区中川。どこもかしこも本名の表札が並ぶ中、家族全員の本名を表札にしたのは高用哲さん(44)=同胞保護者連絡会会長=だ。
8年前、先輩に連れられ軽い気持ちで保護者の会に参加した。「根が真面目」だけに、足しげく通ってはシンポジウムを通じて民族や植民地の歴史を知り、本名の大切さを学んだという。
運転免許証や外国人登録の切り替え以外、本名を目にすることがなく、通名を本名のようにあたりまえに使ってきただけに、同会に参加してからは自分自身の中の大きな改革にとまどいながらも、「自分に正直に自然になれた」ことの喜びを身にしみて感じた。
同会では本名、仕事関係では通名を使っていたが、2年半前に通名を削除した。勤務先(ヘップサンダル関係)の社長が韓国人で、同僚や下請けのおばちゃんたちも韓国人であることから、通名を使う必要性がないからだ。社内では通名で呼び合う同僚に、率先して韓国名の呼び方で言い直している。
高校1年の長男は、小学校は日本語読みの本名で通学。中学の時に通名を使いたいと言いだしたことから、通名そのものを無くした。中学1年の次男は小・中学とも本名で通学している。
「日本の学校にある民族学級だけでは、本当の民族教育は望めない」ことを、同会の活動を通じて痛感した高さんは、まず「民族」のスタートである本名を子どもたちに名乗らせ、家庭という身近な教育の場で、ひとつひとつ韓国について勉強し始めた。高さん宅のリビングの壁には、38度線が引かれていない韓半島の地図が張られている。横には太極旗の刺繍をほどこしたクッションが存在感をアピールしている。はじめは違和感を感じていたという子どもたちも、そんなアボジの姿に、徐々に自覚を持ち始めた。
昨年、ハルモニと一緒に家族そろって初めて済州道へ墓参りに行った。短い期間ながら子どもたちと一緒に祖国の土を踏み、眠っていた民族の血がさわいだという。
「自分のルーツをしっかりと知り韓国人としての自覚を持つことは、ありのままの自分を受け入れ、大切にすること」だと高さん。同会との出会いで、生きていくのに精一杯だった両親の苦労や言葉や歴史など民族教育を受けられなかったことで否定的に生きてきた自分と真正面に立ち向かうことができたと話す。
ウリマルが話せない歯がゆさから、家庭内では簡単な挨拶は必ずウリマルを使う。もちろん子どの名前は本名で呼ぶ。「お父さん」と呼ばれても知らん顔で、「アボジ」と言いなおしてはじめて返事をするという徹底ぶり。
週に1度はハルモニが遊びにきては、子どもの耳にウリマルを慣らせるなど、小さな民族教育をおこなっている。オモニの金真弓さん(43)は「出来たら大学は韓国に留学して常に韓国と関わっていてほしい」と、胸をふくらませる。
長男の孝夫(ヒョブ)君よりも次男の孝介(ヒョゲ)君の方が、韓国にはまっている。昨年の済州道行きが気に入ったのか、今年は一人で行きたいと申し出るなど、言葉が話せないことの不安など全くなく「住んでみたい」ともいう。
最後に高さんは「在日にとって民族教育は人間教育であり、在日社会の大事なキーポイントでもあると思う。子どもたちが在日としての自分の生き方を見つける橋を、親として残していきたい」と思いを語る。
(2003.01.01 民団新聞)