王秀英さんは77年に韓国の女性雑誌の駐日特派員として来日した新定住者。本人も認めるように、日本語のボキャブラリーは限られている。にもかかわらず、王さんが紡ぎ出す言葉は胸にしみる詩集だ。比較文化の視点から発せられる辛口のユーモア、そして異国で暮らす一抹の孤独、そして、いつまでも失わない少女のような純粋さ。それらがわかりやすい、的確な言霊となって作品を際立たせている。
なかでも、「老い」をテーマとした「終の棲家」と題した作品に共感を覚えた。
ムクゲの木は日本に来て屈辱の中を生き抜いた
若くして日本に渡り苦難の日々を暮らしてきた長い年月−−。しかし 日本から一歩も動けないムクゲは 異国の地が終の棲家では あまりにも哀しいと泣いた
もう一つ。「老友」はほのぼのとした気持ちにさせられる佳品だ。30年来のゴルフ仲間という94歳の「彼」との1年ぶりの邂逅を描いた。
−−あら! あの世じゃなかったの?
−−あの世に逝ったのさ。でもあんたがいないので戻ってきたのさ
そして以前のようにラウンドしたけれど もう二人には老眼に霞む芝生さえも夢路の果てを歩くよう
人生の黄昏を迎えた侘びしさと悲しみがうかがえる。
王秀英著
土曜美術社出版販売
(2000円+税)
03(5229)0730
(2014.7.16 民団新聞)