浅川巧の生涯を描いた「道〜白磁の人〜」の映画化まで、11年にわたる曲折の歩みや在日コリアンの心境などが綴られている。
著者は若い頃、家庭の事情で日本の映画界をやめなければならなくなったとき、生涯で1本、劇映画を自身の企画で制作したいと決心した。長年、温めていた企画もあったが、江宮隆之の伝記小説『白磁の人』と運命的な出会いを果たす。監督探しから賛同者募りまで奔走。巧の人間的な素晴らしさを伝えるために講演会を開き、なんと、自身の地元、長野・松本市で映画「白磁の人」松本制作委員会まで立ち上げてしまう。
映画化は、山田洋次、降旗康男、崔洋一など9人の監督に要請。なかでも合意には至らなかったものの、山田監督との2年6カ月におよぶ話しの下りは、著者の映画制作へかける「情熱」が伝わる。その間、信頼していた映画制作会社が倒産したりと、普通なら手を引いてもおかしくはない。諦めなかったのは著者の執念だ。
幼少期、在日であるがゆえに厳しい環境で暮らしながらも、思いもかけない感動体験に出会ったこともある。それは「助け合う人の繋がりの優しい姿」だった。多くの人々を感動の渦で包み込む映画を作りたいという、その一念だけで走ってきた著者の思いが詰まっている。
李春浩著
信濃毎日新聞社
(1500円+税)
026(236)3377
(2014.7.16 民団新聞)