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オバマ氏発言
「中国傾斜」にクギ…国際法違反に牽制求める
米国政府は10月27日(日本時間)、南シナ海のスプラトリー(南沙)諸島にイージス駆逐艦(横須賀基地所属)を派遣し、従前からの予告通り、中国が造成した人工島の12カイリ内を航行させた。「航行の自由」を確保しようとする米国の意思は固く、同様の巡視を今後数週間から数カ月にわたって実施する方針とされる。
中国外務省報道官は同日の定例記者会見で、「中国政府の許可を得ずに中国の領海に不法侵入したことに対し、強い不満と断固たる反対を表明する」談話を発表、「法に基づき、米軍艦に対して追跡と監視を行った」と明らかにした。中国もこの立場を後退させる気配はない。
韓国は米国との同盟の強化に腐心しつつ、最大の貿易相手国である中国との関係をかつてなく深化させてきた。自国の利害に大きな影響をもつ新たな緊張事象にどう対応すべきなのか。「米中均衡外交」の是非をめぐる論議が国内外でかまびすしさを増している。
その過程で、米中両国から二者択一を迫られる最悪の可能性も取り沙汰され始めた。性急な印象はぬぐえないものの、そこには十分な理由があることも否定できない。韓国に投げかけられてきたいわゆる「中国傾斜論」を意識したオバマ大統領の発言が重くのしかかっているからだ。
韓米首脳会談(10月16日)後の共同記者会見で朴槿恵大統領が、「オバマ大統領は『韓米関係と韓中関係の両立は可能だ』と述べ、韓国の対中国政策を支持した」と強調したのを受け、オバマ大統領は「(韓米)関係にひびなど入っていない。同盟はかつてなく強固だ」と言明。さらに、「時々は、朴大統領が習近平中国国家主席と会えばそれが米国に問題になると考える人がいるが、米国は、韓国が中国と良い関係を築くことを歓迎する」と表明した。
こうした言い回しは逆に、米国などに「中国傾斜論」を懸念する空気があることを背景に、韓国の対中接近に一定の自制を求めたものと解釈しても違和感はない。オバマ大統領が異例にも、「もし中国が国際規範と法の順守で失敗したら、韓国が声を上げるべきだと朴大統領に要請した」とつけ加えたのがその証と言えるだろう。
毅然たる態度いわば踏み絵
オバマ大統領のこの発言は、その11日後の米イージス艦による中国人工島12カイリ内での自由航行の試みを念頭においたものだ。必ずしも二者択一を迫るものではないにせよ、中国に対して毅然とした態度をとれるのか、韓国の足元に「踏み絵」を突きつけたものと認識しておかねばなるまい。
韓国政府はこれまで、「南シナ海で航行と上空飛行の自由が保障されるべきであり、紛争は関連の合意と国際的に確立された規範に基づき平和的に解決されるべきだ」とし、実際に「南シナ海地域の平和と安定に影響を与える行動を自制するよう、国際会議などの場で強く促してきた」経緯がある。
韓国政府はこの原則的な立場を、米イージス艦が中国人工島12カイリ内を航行した後も繰り返し表明している。しかし、その意味合いは自ずと異なってくるほかない。中国による人工島建設と領海宣言は国際法に反するという主意であったものが、新たな仕掛けに出た米国にも自制を求めるものと受けとめられかねないからだ。
米イージス艦は今回、台湾が実効支配する太平島、フィリピンやベトナムが領有権を主張する岩礁の12カイリ内も航行した。米国務省は27日、「(南シナ海問題について)どの国にも肩入れしないという立場に変更はない」と強調し、「米中関係はきわめて重要で、両国の利益のために関係の改善と発展を望む」と表明している。
外交姿勢問う心理戦が激化
だが、南シナ海における米中の緊張事象は長期化が避けられない。米国は艦船の航行を継続し、中国は追尾・監視・警告を続ける。軍事演習をぶつける可能性もある。一方で、不測の事態を防止し、軟着陸を模索する米中協議も活発化している。
両国とも軍事的な危機を回避しつつ、自陣営に有利な規範・ルールをつくろうとせめぎ合うことになるだけに、関連・周辺諸国(地域)の安保・外交姿勢を問う心理戦が激しくなるのは必定だ。
昨年の韓国の輸出入物量11億8500万トンのうち、40・66%に当たる4億8100万トンが南シナ海を通過した。輸入エネルギーにいたっては実に90%におよぶ。利害関係が大きく深い海域だけに、韓国もいずれ踏み込んだ態度表明をせざるを得ない。どのようなタイミングになるのか。
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ASEAN諸国
強い対中依存度…余波を警戒、足並みに乱れ
日豪比3国は米支持で連携
米イージス艦が中国人工島12カイリ内を航行した直後の関連・周辺諸国の反応・対応はかなり割れている。
中国の人工島建設と領有権主張を一貫して批判してきた日本の姿勢は、「米軍の行動は国際社会の取り組みと軌を一にするもので、わが国としては支持する」(菅義偉官房長官)と明白だ。
輸出物量の6割が南シナ海を経由する豪州も、「国際法の下、すべての国が南シナ海を含む海域において航行の自由、上空飛行の自由の権利がある。豪州はこれらの権利を強く支持する」とし、「米国や地域のパートナー国と海洋安全保障で緊密な協力を続ける」(ペイン国防相)と言明した。
フィリピンのアキノ大統領は、「航行の自由は抑制されるべきではない」「世界中のどこであっても、誰もが『力の均衡』を歓迎するだろう」と述べ、米軍にいっそうの関与を求める姿勢を示している。
しかし、フィリピンと同じく、岩礁の領有権をめぐって中国と対立するASEAN(東南アジア諸国連合)の各国でさえ足並みはそろっていない。
ベトナムはグエン・タン・ズン首相が「南シナ海の領有権問題はより複雑化かつ緊迫しており、非常に予測困難だ」と述べただけで、政府は公式見解を出していない。マレーシア、ブルネイも米中の緊張激化の余波を恐れて表面では沈黙を守っているとされる。
従来から中立的とされてきたシンガポール、インドネシア、タイの3国もその立場を崩していない。「米中のいずれかにつきたい国はない」(シンガポールのリー・シェンロン首相)、「この紛争に巻き込まれないよう適切な役割を果たさねばならない」(タイのプラユット暫定首相)と距離を置いている。
インドネシアのジョコ大統領はオバマ大統領と会談(26日)し、共同声明で中国の人工島を念頭に「共通の懸念」を表明した。TPP(環太平洋経済連携協定)への加入意向を表明しているジョコ大統領に、オバマ大統領はそれとの関連で「国際海洋秩序の確立努力に参加して欲しい」と求めたという。だが、インドネシアも中立の基本姿勢を変える意思はないとされる。
中国と領有権を争う各国はASEANの枠組みで、紛争防止のための「行動規範」を策定すべく中国と協議を続けている。だが、中国に対する経済的な依存度の高い国が多く、中国による切り崩しもあってASEAN自体の腰が定まりにくい状況がある。
ちなみに、みずほ総合研究所の試算によれば(10月9日発表)、中国の経済成長率が1%減速した場合、世界全体で0・24%下押しされる。国別では台湾が0・48%ともっとも下げ幅が大きく、マレーシア0・35%、フィリピン0・34%、韓国0・31%、ベトナム0・25%と続く。米国支持を鮮明にした豪州も0・25%だ。
韓国と台湾へ風圧強まるか
0・2%と世界平均を下回る日本、0・07%ときわめて低い米国と違い、関連・周辺諸国のなかには中国に対して毅然とした姿勢を取りにくい国が多い。
オバマ大統領は今月中にフィリピン、マレーシアを訪問する。朴大統領やインドネシアのジョコ大統領に求めたように、対中姿勢をより明確に結束するよう働きかけを強めるだろう。
南シナ海における中国の軍事拠点化をともなう強引な進出は放置できるものではない。第一義的にはASEANと中国による「行動規範」の策定を見守るとしても、中国に対抗するASEANの一部の国と米・日・豪による連携拡大はねばり強く追求されることになる。
こうした流れのなかで来年11月に大統領選挙を控える米国では、「選挙戦が本格化するにつれ(候補間で)中国に対する強硬論が激しく出てくるだろう」(ジョン・ハムレ米戦略問題研究所所長)との見解が支配的だ。そうなれば、中国への配慮から態度が不鮮明な韓国と台湾への風圧が強まる可能性は高い。
台湾では来年1月に総統選挙がある。「台湾は中国と不可分」という立場を基調とする与党・国民党と、台湾独立を党是とする野党・民進党が対中政策を軸に激しい競り合いを続けている。野党が優勢とされるだけに、中国への経済依存度が飛び抜けて高い台湾とはいえ、対中牽制論が勢いづくかも知れない。
関連・周辺国のなかで主要な一角を占め、米国と軍事同盟を結ぶ韓国があいまいな態度で通せる余地は狭まってこよう。共和党大統領候補の指名を争うトランプ氏を例にあげるまでもなく、安保ただ乗り論を掲げて韓国をバッシングする空気が強まることも見通しておく必要がある。
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東シナ海
韓中摩擦再燃も…「EEZ」交渉中断のまま
南シナ海における中国の動きを抑制することに成功しなければ、東シナ海にも悪影響がおよびかねない。日中中間線付近で中国が一方的に進めるガス田開発を容認できない日本。この海域で中国に苦い思いを強いられてきた韓国。両国の協調も問われよう。
中国は2013年11月、日本が固有の領土と主張する尖閣諸島(中国名=釣魚島)を含む東シナ海にADIZ(防空識別圏)を一方的に設定した。そこには韓国が管理している離於島(済州道西南の馬羅島から西南149㌔にある水中岩礁)も含まれた。韓国が韓中国防戦略対話で是正を求めたのに対し、中国は「核心的な利益を守る正当な措置だ」として取り合わなかった。
中国に対抗すべく、韓国がADIZを離於島一帯にまで拡大することを宣言したことによって、中国は「互いの主張を尊重し合うという基礎の下で意思疎通をはかっていきたい」と軟化はしたものの、「核心的な利益」という認識を改めたわけではない。
離於島一帯には日本もADIZを設定していて、韓国が交渉を要求しても拒否し続けてきた。この日本に対抗措置をとらなかった韓国が中国に対しては素早く動いたのも、離於島が中国との深刻な潜在的葛藤事案になっているからだ。
水中岩礁の離於島は国連海洋法条約上の島ではなく、領海やEEZ(排他的経済水域)を形成しない。だが、韓国にとって地政学的に重要な位置にあり、海洋研究や気象観測、漁業支援活動の拠点としても貴重な存在だ。87年には灯浮標(無人灯台のようなもの)を設置し、03年には離於島頂上から700㍍の位置に海洋科学基地を建設した。
韓中間のEEZの境界は、交渉が08年に中断されたままま確定されていない。中間線を境界にしようとする韓国の主張に対し中国は、人口や国土面積を境界に反映すべきだとして譲らない。
中間線原則に基づけば離於島は韓国の管轄水域に位置する。基地建設は可能とする韓国に対し、中国は06年に離於島を「蘇巌礁」と名づけ、「韓国の一方的な行動は法律的効力がない」と主張。離於島の海洋科学基地付近で座礁した韓国貨物船の引き上げ作業(11年)の際、「中国の許可がない引き上げは中止せよ」と要求したこともある。
韓国に対してとった同様の行動を中国は南シナ海でも見せてきた。この10月、ベトナム、台湾、中国が領有権を主張するパラセル(西沙)諸島海域で故障した漁船の救助に向かったベトナム船に対し、その航路を中国の公船が阻んだ事件がそうだ。
漁船違法操業再三流血まで
中国はここ数年で、関係が良好なマレーシアのEEZ内にあるジェームス礁の近海にも艦船を派遣、「主権宣言活動」を繰り返してきた。GDP(国内総生産)に占める対中輸出の依存度が19・18%と世界一高いうえに、対中輸出のいっそうの拡大を国策としてきたさすがのマレーシアも、中国と対抗するベトナム、フィリピンとの連携を強めている。
西海(黄海)の韓国側EEZで中国漁船による集団的な違法操業が猖獗(しょうけつ)をきわめ、取り締まりにあたる韓国海警との間で流血事態がたびたび発生したことは記憶に新しい。現在は小閑状態にあるとはいえ、中国近海における漁業資源の枯渇は改善されておらず、景気減速もあっていつ再燃してもおかしくない。
今日の南シナ海問題は明日の東シナ海問題に直結している。韓国はその意味からも、南シナ海の秩序が国際社会共通のルールである国連海洋法条約に基づくよう、より具体的かつ積極的に働きかけるべきだ。現状では海難救助や災害救援も中国の拒否で支障をきたす恐れがある。
韓国政府関係者はこの間、中国を直接的に批判していないだけで、米国の立場を支持している、と語ってきた。今回の韓米首脳会談でも、朴大統領から先に南シナ海問題を提起し、韓国政府の立場を伝えたという。しかし、そうした姿勢を公然と表明することが望まれているのだ。韓中蜜月も筋を通さねば孤立を招き、いずれ重荷になりかねない。
(2015.11.4 民団新聞)