掲載日 : [2020-05-27] 照会数 : 8723
北韓「もう一つの実相」日常のささいな話から…「北朝鮮翻訳会」 脱北者を通じて探る
[ 高島淑郎世話人(前列中央)と翻訳会メンバー ]
【北海道】北韓に住む庶民の日常を知りたいと、韓国語に堪能な日本人研究者が立ち上げたのが「北朝鮮(DPRK)翻訳会」(世話人:高島淑郎さん)と称する研究会だ。韓国のユーチューブ放送「ペナTV」の番組「タルタルタル」に出演する脱北者の語りに耳を傾け、日本語に翻訳している。これまで2年間で60人から話を聞いた。ここから北韓に住む庶民の息遣いを十分に感じることができるという。
「タルタルタル」は台本も編集もない。毎回、異なるゲストが登場し、司会者の質問に答え、北韓での生活や脱北の経緯、韓国入国後の経緯など約2時間にわたって話す。
メンバーは高島さんを含めて5人。「タルタルタル」を視聴し、各自が自分で担当を決めて翻訳作業にあたる。その成果を持ちより、札幌市内でほぼ月1回開催される研究会で報告する。
同席のメンバーからは日本語訳の確認や質問が投げかけられ、感想も述べ合う。研究会後の食事会でも議論が続く。報告内容をまとめたレジュメは高島さん自らチェックし、脱北者の北韓在住当時の感情を<喜><怒><哀><楽><願>の各感情タグに振り分けてからホームページ上で公開している。
苦しい生活や出身成分による差別、徹底した監視の目など、北韓の厳しい現実を突きつけられるが、それよりは何気なく語られる日常のささいな話に注目している。高島さんは「そこに見逃しがちなもう一つの北朝鮮の実相が見える」という。北韓とはあくまで慎重に、息長く向き合っていくのが基本的な立場だ。
高島さんは70年代、韓国に留学し、東国大学の国語国文科修士課程を修了。帰国後は北星学園大学の教壇に立ってきた。定年退職すると、自分にできること、しなければならないことを突きつめた結果、18年5月に「北朝鮮(DPRK)翻訳会」を立ち上げた。メンバー4人はいずれも顔見知りで自らの意志で自然に集まった。
様々な愛の形 喜・怒・哀・楽 ホームページから
恋愛は北韓でも基本的に自由。さまざまな愛の形を喜、怒、哀、楽ごとに分けると次のようになる。金日成の銅像磨きという「精誠事業」と男女の戯れ、一途な恋と裏切り、理想の男性と親の反対、平壌の特権階級と男の見栄。恋愛における喜怒哀楽だけを見ても、北朝鮮人民の息遣いを十分に感じることができる。
喜:金日成の銅像磨きに3年間毎日通った。5時に起きて1時間かけて行くのだが、党員になるためという目的以外にもう一つ目的が。彼女と行くのだ。人通りが少ないので手をつないだり、キスをしたり、ほんとうに良い時間だった。[10年韓国入国(23歳時)]
怒: 26歳の男性に一目ぼれし、1カ月に亘って尾行した後、自分から告白して付き合い始めた。同棲し子を儲けたが、彼は1人で脱北し、韓国へ行ってしまった。[16年入国(27歳)]
哀:結婚前に恋人がいた。医大卒の彼は強度の近眼だったので両親が強く反対した。視力以外のすべてにおいて文句のない人。徐勝兄弟の映画に出ていた人民俳優キム・チョルに似ていた。[13年入国(42歳)]
楽:平壌の料理学院に通った。恋愛が盛ん。相手は金策工大、外大、金日成大などの男子学生。グループデートで、だいたいは外貨食堂の部屋を借り切って食事とカラオケ、午後からは遊園地、スケート、ボーリング、ビリヤードなど丸1日遊ぶ。移動はタクシー。お金は基本、男子が払う。[15年入国(25歳)]
両江道に住む一人の中学生を見てみよう。暮らし向きは悪くないが出身成分があまり良くないようだ。彼女は16年、15歳のとき韓国に入国した。
喜:停電が多かったが、我が家ではソーラーパネルを使ってバッテリーに蓄電していたので大きな不便はなかった。アパートの1階だったので水の出も良かった。2階以上だと水くみをしなければならない。
怒:7時半登校、8時授業開始、みんなの学習態度はあまり良くない。
哀:小学生の時に金正日が亡くなり、みんなといっしょに本気で泣いた。
楽:ラジカセで韓国の歌を聞き、歌ったり踊ったりお菓子を食べたりおしゃべりしたり。
(2020.05.27 民団新聞)