掲載日 : [2023-04-05] 照会数 : 1258
《新刊紹介》「死を想う」辛口かつ爽快に
著名な在日詩人、ワン・スヨンさんの辛口かつ爽快なエッセイ集だ。「メメント・モリ」はラテン語で「死を想う」。いつか必ず訪れるその時を前にしたワンさんの心境の一端がうかがわれる。27編の短編作品は多くが韓国と日本が直面している超高齢化社会をテーマとしている。独自の韓日比較文化論の視線で切り込むワンさんの一刀両断的な批判精神が心地よい。
「連絡帳」は週2回、デイサービス施設に通う当時92歳で元は重役だったという男性の話。「連絡帳」には「今日はお漏らしもしないでえらかった」というような保育園児にあてたかのような文面が並ぶ。男性の妻は「人格を否定されたようで悔しい」と号泣した。儒教の国からやってきたワンさんには信じられない出来事だったようだ。
病院で医師が本人ではなく、付き添い人に病状の説明をする日本独自の習慣にも不満をぶつける。肉体的苦痛よりも当事者として無視された精神的痛みのほうが大きい。韓国ではたとえ老人であっても、患者本人を前に丁寧に説明するのが普通とされるからだ。
ワンさんは釜山生まれ。韓国女性雑誌の駐日特派員としてやってきた。韓国語の詩で第11回尚火詩人賞(96年)、第32回月灘文学賞(98年)、第32回尹東柱文学賞(16年)など多数受賞。日本でも11年、第4回石川啄木賞に選ばれた。
冒頭と巻末に2編の詩を収録。図らずも異国で老境に入った詩人のそこはかとない寂しさが伝わってくる。
税込み1100円、企画ユニナ(FAX042・499・2144)
(2023.04.05民団新聞)