「在日」社会に活力取り戻す
在日韓国人にとって地方参政権は悲願である。すでに渡日初期より100年になる「在日」は、日本社会のすべての義務をはたしているにもかかわらず地方参政権をいまだに得ることができていない。
この地方参政権獲得のために、民団をはじめ多くの先達が血のにじむような努力をしてきた。しかし、達成されていない。その結果、「在日」社会は諦念のなかにあると言っても過言ではない。
2021年1月から筆者たちはインターネット署名サイトChange.org(チェンジオーグ)で「定住外国籍住民に日本でも地方参政権を!」という署名活動を始めた。
今回、活動を始めた意図は「定住外国籍住民の地方参政権」そのものであると同時に、こうした諦念ともいえる状況にある在日同胞の「エンパワメント」、つまり個人や集団が本来持っている潜在能力を引き出し、湧き出させることである。
話がややずれていると思われるかもしれないが、在日韓国・朝鮮籍者の自殺死亡率は、日本全体や他の国籍者よりも際立って高い。とくに民族運動や地域運動を熱心におこなってきた2世の人びとの自殺率が高いのである。指紋押捺拒否運動の頃、「在日」は元気がよかった。社会を変えていけるそうした期待があった。
しかし、民主党政権終結とともに決定的となった「地方参政権」の挫折以降、「在日」はなかなか展望を見いだせていない。そうした展望のなさが「在日」を追い込んでいるといえるかもしれない。
活動開始から1年が過ぎた1月20日現在で1万8533人が賛同署名を寄せてくれている。しかしこの数は決して多いとはいえない。賛同方法はまず①Change.orgのサイトに入る②「地方参政権」で検索③「定住外国籍住民に日本でも地方参政権を!」のページで「今すぐ賛同」をクリック④初めての人は名前などを登録。このときペンネームや通称名でもだいじょうぶ。
今回の運動でまず念頭にあったのはニューカマーの外国籍住民であった。つまり80年代後半以降に日本に来た人びとだ。そのためさまざまな外国籍住民団体にあたったが、おしなべて反応はよくなかった。ある団体の理事は、「主張としてはよいが、自分たちはこれまで政治的な問題にタッチせずにやってきた。もしこの問題に賛同すると、『この団体はいつから政治問題に頭を突っ込むようになったのだ』と自分たちが批判をうける」という回答であった。
新規定住者の人びとはとくに在留資格の問題などもあり、政治的問題への関与、名前が出ることを恐れる傾向がある。しかしそれでは何も変わっていかない。
もう一つ運動を始めて明らかになったのは、「核となる国会議員」がいないということだ。この件に賛同しても票を減らすことにはなっても増えることは見込めないため、議員も政党も二の足を踏む。筆者たちがおこなった政党アンケートで回答を送ってきたのは順に共産党、公明党、社民党のみ。立憲民主、国民民主、れいわ、自民は回答無し。ある「リベラル」といわれる政党の議員に尋ねると、「党議がありますので個人として意見は差し控えたい」という回答であった。市民運動とはいわば城の外堀から声をあげ届けることである。しかし目標達成のためには本丸でその声を受け止め動く存在が必要である。運動と国会を有機的につなぐ存在だ。こうした核になる議員が必要なのである。
議員の人びとを動かすためには世論形成とそのための社会運動が必要である。しかし一方、運動と運動体はあくまで「手段」であり「道具」である。「出口」から逆算してどのような運動と運動体のありかたが必要かということを考える。
「在日」の場合、日本社会に問題提起していく術が少ないため、運動と運動体が「自己目的化」してしまう傾向がある。すると硬直化が始まってしまう。運動と運動体は「目的」ではなく「手段」であり、「道具」であり、光を集めて火を起こす「集光レンズ」である。
また、地方参政権推進のために、法改正とともに各自治体の条例でそれを実行できないかという模索もある。筆者は神奈川県川崎市の立憲民主党、共産党、公明市議団にコンタクトをとった。そうしたところ、立憲民主党、共産党は「対応を考えます」との返事。公明党はもう少しくわしく話が聞きたいということで、市役所で3人の公明党市議と話しをした。「もう少し勉強して対応していきたい」ということだった。また神奈川県相模原市でも同様の動きがある。
こうした動きや思いのもと、私、金泰泳は今年夏の参議院議員選挙に立候補することを決意しました。社民党から全国比例区で出馬する予定です。在日同胞のため、そしてすべての住民の幸せのために働かせてください。
韓国籍、朝鮮籍のみなさん、また日本籍、ほかの国籍のみなさん、ぜひ、ご支援をお願いいたします。
(2022.02.02 民団新聞)