伝統の仮面や踊り、白磁などを好んで描いてきた在日1世の画家、呉炳学さん(91)のマンべく(望百)記念展「海峡をつなぐ民族の色」が、東京・南麻布の在日韓人歴史資料館(韓国中央会館別館)で開催されている。17日のトークイベントでは、呉さん自ら作品に込めた「民族の魂」について語った。
代表作の一つに数えられているダイナミックでリズミカルな「仮面舞」は、演者がいまにもキャンバスから飛び出してきそう。大胆な色使いが見る者の心を激しく揺さぶる。一方、白磁は女性の裸身を思わせるかのよう。ほんのりとした温もりさえ感じる。
中学生のときに出会ったフランスの画家、ポール・セザンヌに魅せられ、画家を夢見て18歳のときに単身、渡日。いまでも「セザンヌの領域にどれだけ近づけるかが生涯の課題」と話す。東京芸大に入学したものの、私淑するセザンヌ以外に師を見いだせず中退。日本の画壇に属さずひたすら独自の世界観を追い求めてきたため、「孤高の巨匠」とも呼ばれている。
会場に詰めかけた熱心なファンからは、「呉さんも高齢。いざというとき、大事な作品が散逸してしまうのはしのびない」と、専用の美術館を望む声が聞かれた。これに対して呉さんは、「立派に描いてさえいれば、作品は永遠の寿命をいただける。それだけのものなのかどうかはともかく、そうありたいと願っている」と結んだ。
3月21日まで。在日韓人歴史資料館(03・3457・1088)。
(2015.1.28 民団新聞)