ハヌルハウス制作
壬辰倭乱の実相を現在の視点と問題意識に立って掘り起こした長編記録映画「月下の侵略者−文禄・慶長の役と『耳塚』」(前田憲二監督作品、2時間48分)が完成した。韓半島と中国、日本の現場を訪ね、侵略した側とされた側、双方向の視点でロケを重ねた異色作。在日韓国人2世を中心に6人が製作委員として名前を連ね、前田監督を側面からサポートした。
韓国、在日の視点入れ
日本の歴史教科書を開いても、壬辰倭乱とはなんだったのかについて分かりにくい。せいぜいが「秀吉が朝鮮を攻めた」ぐらいの記述だ。だが、韓国ではいまだに癒えない傷跡として記憶されている。建築現場からは当時の犠牲者と思われる遺骨が発掘されるということも珍しくはない。前田監督がまず意図したのは、こうした歴史認識の隔たりを埋めることだったという。
韓日両国での資料発掘と数回にわたる海外ロケをして、完成まで3年かけた。制作費は約6000万円。この約半分は1口5000円の賛同金でまかなった。リストを見ると、在日韓国人が多数、名前を連ねているのが分かる。財団法人韓哲文化財団(韓昌祐理事長)と医療法人八千代病院(姜仁秀理事長)からはまとまった助成金を贈られた。
ナレーションは劇団新宿梁山泊を主宰する金守珍さん、映像でも効果的に使われている豊臣秀吉の肖像画は呉炳学画伯が描いた。韓国でも著名な学者やジャーナリストらが出演、または関係資料の翻訳などで貢献した。
一方、在日の製作委員とは何回も討論を重ね、構想を練ったという。前田監督は「在日と韓国側の協力、支援がなかったら完成できなかった」と振り返った。
作品は全7章立て。秀吉が侵略の足がかりとした名護屋城(佐賀県)から始まり、韓半島各地では激戦地をつぶさにロケし、学者や当時の子孫から証言を引き出している。また、製作委員の一人でもある在日2世、尹達世さんがライターとして、日本へ拉致された陶工や医師の末裔を訪ねる映像も収められている。3時間近い長編ながらこれまで独自に掘り起こした知られざる事実やエピソードを縦横に織り交ぜており、最後まで飽きさせない。
民俗楽器のコムンゴ、ヘグム、ピリなどに日本の尺八がからむ効果音が臨場感を盛り上げており、見る者を400年前の世界に誘う。
上映会は8月27・28の両日、東京・新橋のヤクルトホール(午後2時と6時の2回、当日1500円)を皮切りにスタート。今秋から来年にかけては広島、川崎、京都などでも自主上映が予定されている。前田監督は全国で草の根上映運動を展開していきたいと意気込んでいる。
問い合わせは℡03・5996・9426、FAX03・5996・9428、メール
house@ken-office.net)NPO法人ハヌルハウス。
(2009.6.3 民団新聞)