掲載日 : [2009-06-17] 照会数 : 4539
<読書>白村江敗戦と上代特殊仮名遣い 言語で迫る渡来王朝説
筆者は東洋史・社会学・宗教学・日本語学の分野を渡り歩き、韓国や中国語圏に居住し外国人相手の日本語教師を長くやった。日本語教育専門家を名乗ったこともあるが、敢えて自己規定するなら「社会学者」だと言う。専門学術書風の書名とは違い、筆者は硬骨の在野研究者であり、頭の固い「専門家」より教養ある一般読者に読んでほしいと強調する。
白村江の敗戦は日本列島人類史にとって、弥生時代の開始、明治維新と匹敵する大事件だったとする。それによる「百済人大量亡命がなければ、今日我々に古代の出来事を伝える『記紀万葉』(古事記・日本書紀・万葉集)も書かれず、律令制の施行も不可能だった」からだ。本書は、歴史学的な「倭王朝渡来王朝説」を伏線に、言語学・音声学的に「上代特殊仮名遣い朝鮮帰化人記述説」を立証しようとする力作だ。
「日本書紀」については、本貫の地である加羅(任那)への思いを断ち切り、「日本王朝は神代の時代から日本列島の孤高の王朝」という神話を創り上げ、前身の「倭王朝」が渡来の王朝であることを隠蔽しようとしたと断じるなど、論旨は明快。
母音の「条件異音法則」を口の動きで説明する写真が多用されているほか、韓国語・日本語・中国語比較音声実験の資料CDが付録にある。
(藤井游惟著、東京図書出版会、1800円+税)
℡03・5842・6415
(2009.6.17 民団新聞)